2014.02.14

【この1年を振り返って】男児当に死中に生を求むべし

お久しぶりです.M2の吉川遼です.
本来であれば僕も今年で晴れて修了,さあ社会人!...,なのですが,現在ご縁がありフィンランドのアールト大学芸術デザイン建築学部(Aalto University, School of Arts, Design and Architecture)に留学させて頂いております.

Arabia

Aalto University, Arabia Campus. 昨年までMedia Labはこの建物内にあったのですが,今年よりHelsinkiの隣,EspooのOtaniemi Campusに引越してしまったため,あまりこちらに来る用事がないのが残念です.Alvar Aaltoが設計したOtaniemi Campusの整然とした佇まいもよいですが,こちらの雰囲気の方が個人的には好きです.

現在僕が在籍しているメディア・ラボの良い点として,講義の多くをメディア・ラボの卒業生が受け持っており,彼ら自身の専門や仕事で会得した実践知を学生と共有できる接点が複数あることが挙げられます.また各分野に特化したスタッフも数多く在籍しており,学生のサポート体制は非常に整っています.
また留学生の多さもさることながら,それぞれの学生が非常に多様なバックグラウンドを持っていることもよい環境を生み出している要因だと感じています.
コペンハーゲンで街中を使ったインスタレーションを制作していた人,身体を用いたタイポグラフィを研究していた人,漫画家でありながら化学を専攻していた人,...など皆さん非常に豊かなバックグラウンドを兼ね備えており,大変刺激的な毎日を送っています.

その一方,研究体制に関しては,特定の教授に就くといった日本のような体制ではないそうで,まだ組織自体が新しいこともあり理論的な枠組みの体系化や研究知見の積み重なりがまだ弱い,という声も聞かれました.

まだ留学生活もようやく1ヶ月を過ぎたばかりではあるので,何とも言えない部分が多いですが,これから先も色々と面白い体験ができそうです.


さて,昨年は色々な出来事が続々と降りかかってきて,今までにないくらい波瀾万丈の一年でした.どこからまとめてよいのか,といった状況なので少し雑多になってしまうかもしれませんが,研究活動を軸に留学に至るまでのこの1年を振り返っていきたいと思います.


■研究の焦点化
1月から3月にかけては,入学時よりこだわっていた「背景情報」を学習に活かすために何が求められるのか,対象とする分野や学習者,そして何をもって「背景情報」と呼ぶのか,自分が漠然と抱いていた背景情報を用いた学習支援のイメージをより具体化していく作業に追われていました.その結果として,熟達者の暗黙知的な要素(例:伝統舞踊や弓道の身体動作,譜面からの楽曲イメージ生成)が自分の抱いていた背景情報のイメージ,そして学習に活用できそうな背景情報と合致していたため,まずは「熟達者のプロセス」を用いるということでさらに対象を絞っていきました.


■問題意識の欠如
対象を楽器演奏に絞ってからは,認知科学や演奏領域の先行研究などを読み,自分が対象としている領域において何が問題となっているのか,その問題に対してどのような方法が有効なのか,頭の中では分かっているようなつもりになってロジックを組んでいたのですが,今思い返してみると前提となる「学習者が抱えている問題」や「社会的背景」の部分が非常にもろく,不安定なものであったように思えます.そのような砂上の楼閣に心柱が通っていると思い込んだまま,とにかく何か作らなくては,と焦燥に駆られていました.

それでも,自身の問題意識をより確固たるものにするため,楽器演奏熟達者の方々へのインタビューを通し,「どのように楽曲に対するイメージを形成しているのか」「それをどのように演奏に反映しているのか」といった点に対する理解を深める事ができました.実際にヘッドマウントディスプレイを使ってアプリケーションのプロトタイプを作ったり,...と(様々な課題をそれはそれは潤沢に残しつつ周囲に心配されながらも)順調に進んでいるように自分の中では思っていました.


■本厄の本領発揮
・・・とここまではよかったのですが,昨年末から無理をしていたツケが回ったのか,日常生活に支障がでる程体調が悪化してしまったことや,色々なトラブルも重なったため,JSETでの発表以降少しお休みを頂き,色々と思案を巡らせ,以前より興味のあったメディアデザインについて学ぶならこのタイミングしかない,と一念発起し,10月になんとかアールト大学に留学を申請し,年末年始ドタバタしつつも今年の1月6日に無事ヘルシンキに来ることができた,...というのが僕の2013年でした.

なので去年1年を振り返る,となるとよいこともあった反面,1年を通して辛く,苦しい時期が続いていた,というのが本音です.


■壁
研究活動において,壁は幾度となくやってきます.昨年までは小さな壁と大きな壁が毎月押し寄せ,その壁を乗り越えることに自身の全てのリソースを費やしていました.

壁を乗り越える活動からしばし引き剥がされたことで,今までの自分の物の見方を相対的に捉えることができたことは,留学してよかったことの1つだと思っています.また同時に自分の研究の立ち位置を相対的に捉え直したことで,今までの自分が大変な視野狭窄に陥っていたことに気づくことができました.当時ゼミで僕が研究発表をした後の空気感や皆さんから頂いた貴重なコメントの真意,そして僕自身が研究発表の前後に毎回抱いていた「コレジャナイ感」と毎日追い縋ってくる得体の知れない「何か」が何だったのか,今になってようやく気づくことが出来たような気がしています.

とはいえどこに行こうが壁にはぶつかるもので,留学における壁も言語や文化など様々です.これから先も僕は様々な壁にぶつかるのだと思います.

そのような場面において,自身の平衡感覚を麻痺させることなく,正面から対峙し,乗り越えられる力こそが,恐らくいつ,どこで,何をしていても自分自身を保つために,そして自分自身を成長させていくために必要なのかもしれない,と去年の8月上旬から先月までにかけての葛藤や苦悩,そして様々な方から頂いたご助言から学んだ次第です.


■経験に根を張った研究を
今後研究を進めるにあたり,僕自身の経験とそこで感じたものを自分の研究にどこまで入れ混ぜることができるのかが重要になってくると実感していますし(この点については最近,研究室の先輩の池尻さんのブログを読んで重要性を再認識しました),なによりそれだけの時間と場所を与えていただいたことに今は感謝しています.

また,研究室のメンバーの実践に携わることで,実験の準備や手順について間近で学ぶ機会があったことは来年度僕自身が実践をおこなっていく上で大変勉強になりました.どの方も綿密に計画を立て,スケジュールから機材等必要なものをきちんと管理し,参加者・実践者双方に実りのあるものを作り上げていく様子は,非常に参考になりましたし.大変尊敬できるものでした.

今の研究テーマがどのように進んでいくのか,どのように変わっていくのか,僕自身もまだ明確な方向性を打ち出せないままモヤモヤとしている状況ではありますが,今,この場所で学んでいる事を無駄にしないよう,自分が今持っている手札を学際的かつ有機的に結びつけていくことで,研究をより実りのあるものにしていければと思っています.

来年度も様々な方々にご指導・ご協力を仰ぐことになるかと思いますが,何卒よろしくお願い申し上げます.

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ヘルシンキより

吉川遼

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