2013.12.21

【参考になった研究の方法論】人の「こころ」を研究するために


こんにちは、D3のふしきだです。きりりとした寒さが身に染みる季節になりましたね。
「参考になった研究の方法論」シリーズも、いよいよ今回が最後です。


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そもそも、研究の方法論には、何がどこまで含まれるのでしょう?
研究とひと口に言っても、学問領域によって捉え方は異なり、実際に研究者の方々がとられるアプローチも多岐にわたるはずです。
そんな迷いを常に抱えながら研究に取り組んできたこれまでを思い出しつつ、常に手元に置いておきたい5冊の本を紹介したいと思います。


---実験をデザインできることの大切さ---

わたしが初めて研究というものに触れたのは、学部2年生の後期だったように思います。認知心理学と社会心理学の大学院生に手取り足取り教えていただきながら、実験をグループで行い、個人でレポートを毎週書いていた記憶があります。そのため、「実験を計画・実施して、分析の結果に解釈を加える」という一連の流れが研究で、実験のデザインをいかに上手に組めるかがすべてを決めるのだと感じていました。

そして、その頃に繰り返し読んでいたのが、『心理学研究法-心を見つめる科学のまなざし(※1)』です。「ものごとを直感ではなく科学的に理解するためにはどうしたらよいのか」という視点から、実験法、調査法、観察法、検査法、面接法の基本的な考え方や手順が紹介されています。

当時、とても印象に残っているのは、実証的研究は「準備、発案、研究計画の立案、実施、研究の分析、報告」という6段階に分けられることや、実験法ではいかに変数の操作・測定・統制が重要になってくるのかといった、心理学研究法の土台の部分でした。人を対象に研究したいと考えている方には、最初におすすめしたい入門書です。


---初めて調査をするあなたに---

その後、色彩心理学の実験をテーマに卒業論文を書き上げた後、大学院に進学して痛感したのは、実験法と調査法では、気をつけなければいけないポイントやタイミングが異なるということでした。明らかにしたい事象について、それを構成する概念を設定し、測定可能な変数に落とし込むという手続きは、どちらの方法にも共通していました。けれども、実験法のベースにある変数の操作ができない調査法では、事象を検討する上で思いつく限りの変数を測定する必要があることを、うまく呑み込めずにいました。

そんなとき、とてもお世話になっていた先生が紹介してくださったのが、『心理学研究法入門―調査・実験から実践まで(※2)』でした。この本は題名からもわかるように、心理学の研究法を基礎から理解できるという点では、※1と重なる部分が多々あります。ただし、前半に質的調査および量的調査の特質やアプローチがていねいに解説されているという点では、わたしの調査法に対する戸惑いをひとつずつほぐしてくれる良書でした。

その後、修士研究では質問紙調査を行うことになり手にとったのが、『質問紙調査の手順(※3)』です。構成概念、尺度、項目といった質問紙に関する用語の整理にはじまり、先行研究の中から導出された問題に対して、適切な目的を設定し仮説を示した上で、尺度を作成することの大切さが語られているなど、質問紙調査の手順を時間軸に沿って理解することができます。加えて、調査を依頼・実施する際の注意点や、回収したデータの入力および分析方法に至るまで、初めて調査をする人にもわかりやすく手順が示されていますので、ぜひ参考にしてみてください。


---実験や調査によって得られたデータの活かし方---

先行研究をレビューして問題をみつけ、それを解決するために目的を掲げて適切な方法を選ぶとき、その方法にはデータの取り方と活かし方の2つが含まれると思います。先に言及した実験や調査がデータの取り方に含まれるならば、データの活かし方のひとつとして統計学があげられるのではないでしょうか。

卒業論文および修士論文、そして今取り組んでいる博士論文では、基本的にはデータの分析は統計学を用いてきました。わたしの場合、学部の頃はt検定や分散分析ができれば特に問題はなかったため、大学院に入ってから相関分析や回帰分析、多変量解析などを学ぶ必要性が出てきたとき、初めは頭の中を?が渦巻いていました。その理由のひとつは、学部時代に苦手な統計学をおろそかにしていたからなのですが、もうひとつの致命的な理由としては、推測統計学の考え方が曖昧だったことにあると今になって思います。

そんな統計音痴のわたしを救ってくれたのが、『心理・教育統計法特論(※4)』でした。この本は放送大学のテキストなので、オープンコースウェアで公開されている音声講義を聴きながら、全15回で統計を道具として使いこなすための準備を終えることができます。標本データの結果から全体の母集団の傾向を推測するという基本的な考え方や、これまでの統計学の経緯を理解した上で、目的に対応した分析方法をひとつずつ学ぶ際にとても役に立つと思います。


長くなりましたが、最後にもう1つだけ。

『創造的論文の書き方(※5)』は、博士論文に取り組んでいるわたしの机の上に、常に置いてある1冊です。ひとつの研究が終わり、知見を世の中に公開するときは、報告書にしろ論文にしろ、文章として形を残すことになります。そのときに、どうすれば自分が研究に感じた思いをそのままの強さで伝えることができるか、いつも頭を悩ませます。

答えは当分見つかりそうにありませんが、「創造的論文とは、・・・いい研究がいい文章で書かれたもののことである」という1文を励みに、博士論文を書き上げたいと思っています。


---引用文献---

※1 高野陽太郎・岡隆(編) (2004) 心理学研究法-心を見つめる科学のまなざし. 有斐閣,
東京
※2 南風原朝和・市川伸一・下山晴彦(編) (2001) 心理学研究法入門-調査・実験から実践
まで-. 東京大学出版会, 東京
※3 小塩真司・西口利文(編) (2007) 質問紙調査の手順. ナカニシヤ出版, 京都
※4 福田周・卯月研次(編) (2009) 心理・教育統計法特論. 放送大学教育振興会, 東京
※5 伊丹敬之 (2001) 創造的論文の書き方. 有斐閣, 東京


伏木田稚子

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