2013.06.23

【山内研の必読図書】「複雑さと共に暮らす : デザインの挑戦」

こんにちは,M2の吉川遼です.

山内研の必読書籍シリーズ,第3回目はこちら,

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Norman, D. A.[著], 伊賀聡一郎, 岡本明, 安村通晃[訳](2011)
複雑さと共に暮らす : デザインの挑戦. 新曜社.

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この本は日常の様々なデザインとそこに潜んでいる問題について知覚し,考えるきっかけを与えてくれます.

例えばこのゴミ箱.
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缶を捨てる時は丸い穴に,また紙や新聞といった薄いものは長細い穴に,とそれぞれ形状の近い穴に捨てればよい,ということが伝わってきます.
このようなデザインにはシグニファイア,すなわち適切な行動の知覚的なサインがあるといえます.

このシグニファイア,アフォーダンスと混同されがちなのですが,異なる概念です.

シグニファイアは物理的,社会的世界で我々が意味ある物として解釈できるシグナルであり,それは意図的に配置されたものであったり,活動や出来事から偶然生まれるものであったり,他者の行動の結果から生じる社会的なものであったりします.
その一方,知覚心理学者のギブソンが提唱しているアフォーダンスとは「生体の持つ可能性とモノの持つ可能性との間の関係性」であり,あるモノに対して人がとりうる行動を語りかけるものです.

ノーマンはこのアフォーダンスの概念をデザインの世界に応用したのですが,結果的にデザインの領域において「アフォーダンス=何か知覚されるもの」という認識が広がりました.
しかしながらギブソンの定義に基づくと,アフォーダンスは誰かが気づくかどうかにかかわらずそこに存在するものであるため,デザイナーは「アフォーダンスを加えた」というよりは「アフォーダンスを可視化している」のだ,とノーマンは指摘しています.

社会的シグニファイアの例としてノーマンは,人々が近道をすることで禿げてしまった公園の芝生を挙げています.芝生に限らず,本の耳折れや論文の参考文献など,私達の活動の痕跡から社会的シグニファイアは形成されます.この残された痕跡は人間一般の振る舞いに対し,とても貴重な情報となります.

このことについてノーマンは
"人は,人に,物理的な場所に,あるいはシステムや組織にたえず結びついている.こういった痕跡は我々の生活を簡単にしたりも複雑にしたりもする"(pp.146-7)
と述べています.


開発研究を進めるにあたって,自身が開発したシステムをどのように使ってもらうのか,コンテンツをどのタイミングで提示するのか,そして既存の学習形態と学習の問題点に溶け込ませるにはどのようなシステムフローが望ましいのか,...といったようにトータルエクスペリエンスを常に考えつつコンテンツやユーザインタフェースなどを設計していくことはとても重要です.

開発に限らず,学習環境デザインを進めるにあたり,日常に潜んでいる様々な問題に敏感になること,そして,それが誰のどのような場面において問題となっているか,その問題を解決するためにどのような解決法が望ましいのかを考える上で,この本はきっと自身の感覚を研ぎ澄ませてくれることと思います.

吉川遼

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