2012.10.11
D2の安斎勇樹です。研究と一口にいっても、修士論文を一つ書き上げるまでには様々な課題を乗り越えなければいけません。先行研究の調査は当然として、最新の技術や現場の動向についても把握していなければいけないし、その上で、過去に誰も取り組んでいない研究のアイデアをみつけなければいけません。そのような課題の解決に役立つウェブサイトは、これまで修士課程のみなさんが紹介してくれました。
ところが、修士論文を書き終えてみると、論文に取り組んでいたときとはまた違った問いに頭を悩ませることになります。
ー自分は、いったいなんのために研究をしているのだろうか?
ー必死に書き上げたこの論文は、誰に、どのように役に立つのだろうか?
ー社会の中で、自分は「何者」としてこれから生きていくのだろうか?
つまり、研究者として(あるいは修士卒の社会人として)、キャリアをどのようにデザインしていくべきかという課題です。キャリアは偶然に左右されるとはいえ、定期的に立ち止まって自身のアイデンティティを見つめ直し、主体的にキャリアを築いていく意識をもつことはとても大切です。
そんな時に役に立つのが、自分よりも遥か先を走っている研究者たちの「物語」ではないでしょうか。
1)TED: Ideas worth spreading
http://www.ted.com/
言わずと知れた「TED」では、様々な分野の著名人のプレゼンテーションを視聴することが出来ますが、研究者も数多くエントリーしているのをご存知でしょうか。
例えば、心理学者のチクセントミハイのプレゼンテーションでは、第二次世界大戦中の幼少時から振り返り、心理学を学ぶことになった経緯、現在の研究内容や今後のビジョンについて幅広く語られています。
特に僕が気に入っているのは発達研究者のロイのプレゼンテーションです。ロイは、息子が生まれてからの3年間、自宅の全ての部屋にカメラとマイクを取り付け、9万時間の動画と14万時間の音声からなる記録を収集し、周囲の支援を得ながら言語的に発達していく過程を詳細に分析しています。ロイの経歴的な物語はこのプレゼンテーションからはわかりませんが、研究にかける覚悟と情熱、さらには膨大なデータを魅力的かつわかりやすく可視化する技術など、研究者にとって大切な姿勢を多く学ぶことが出来ます。
2)研究者の仕事術 -実践と研究の両輪を回す実践的研究者の仕事のつくり方-
http://amphibia.jp/
また、手前味噌になりますが笑、ウェブマガジン「研究者の仕事術」では、実践志向の研究者たちがいかにして研究と実践を連携させているのか、その思想や技法について、また、そこに至るまでの経緯について、インタビュー記事によって紹介しています。
ただ論文を書き続けるだけでなく、研究と社会をどのように接続させ、価値を生み出していけばよいのか、沢山のヒントが詰まっています。
山内先生が指摘している通り、他人の物語を鵜呑みにし、それによって自分の可能性に制限をかけてしまっては本末転倒ですが、自分のキャリアを相対化し、自ら人生の舵をきっていくためのヒントとしては、先人の物語は大いに役に立ちます。
研究をしていると目の前のタスクに忙殺されがちですが、ちょっと一息ついて、先人たちの物語を楽しみ、自分を見つめ直す時間をとってみるのも良いかもしれません。
[安斎 勇樹]