2012.09.19

【エッセイ】物語の落とし穴

Harvard Business Reviewのブログで面白い記事を見つけました。

Y世代(現在23歳から37歳)の標語「好きなことをしよう (follow your passion)」の落とし穴:好きになったり楽しさを感じられるまでには時間がかかり、仕事を選ぶ基準としては機能しない

http://blogs.hbr.org/cs/2012/09/solving_gen_ys_passion_problem.html

世代論の妥当性はともかくとしても、「意識が高い」学生と話していると情熱がなければならないという強迫観念を持っているのではないかと感じることはあります。

この記事で面白いのは、後半にスティーブ・ジョブスについて触れているところです。ジョブスは有名なスタンフォード大学でのスピーチで仕事に情熱を持つことの重要性を訴えていますが、伝記が示すようにジョブスの情熱の対象は東洋の神秘主義など様々に移り変わっています。現実に起こったことは複雑で、単純な「お話」に還元できないものですが、ジョブスをカリスマとしてあおぐY世代がこのスピーチに影響されている可能性はあるかもしれません。

スピーチなどの「物語」は人間に不可欠なコミュニケーション様式であり、出来事の意味を人に語り共有することは価値あることです。ただし、自分の人生に予定枠として「物語」をあてはめることの危険性については意識した方がよいと思います。

TEDなどのプラットフォームによって、物語は流通するようになりました。それに刺激を受けることはよいことですが、物語として単純化された「過去の」情熱を、今から始まる「未来の」選択の前提にすると、かえって可能性を狭めてしまうのではないでしょうか。

今の自分が物語に出てくる人のようでなくても、あせることなく目の前にある現実の中からよりよい選択を積み重ねていけば、振り返ったときにそこに物語ができているかもしれません。

物語の「予定枠化」は若い人たちだけのことではありません。時代が激しく移り変わる中で、自分を明治維新の英雄になぞらえる中高年もたくさんいます。誰に迷惑をかけているわけでもないのですが、「自分は坂本龍馬のように生きるのだから○○しなければいけないんだ」というような話を聞くと、「そういう枠を捨てて考えたら違う未来が待っているかもしれないのに」と残念に感じることがあります。

物語から学びながら、物語にしばられない。ーそういう生き方は意外に難しいのかもしれません。

山内 祐平

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