2012.06.25

【山内研との出会い】山内先生との出会い

みなさま、ごきげんよう。修士2年の早川克美です。
研究室メンバーそれぞれの【山内研との出会い】を語る今回のシリーズ、バックナンバーも個性豊かで興味深いですね。今までメンバー間ではなんとなく雑談の中で語られてはいたものの、テキストでまとめられると「出会いの背景」が構造化されて見え、興味深いものがあります。個人的には1年越しに実現したいblogテーマだったので(大げさ?でも本当に)これから先の後輩、先輩方の記事が楽しみでなりません。

...いささか前文にて、勝手にハードルを高くしてしまったきらいがありますが(笑)、私、早川の【山内研との出会い】を心して書かせていただきます。

これまでのblogでもお話ししてきましたが、私は20年以上デザイナーとして働き、経験を重ね、40歳をとうに過ぎて東京大学大学院学際情報学府→山内先生の門を叩いた者です。山内研、そして山内先生に辿りつくまでには、20年を語る必要がありますが、そんなことをしていたら長編連載になってしまうため、出会いに至るまでのプロセスを5つにわけてお話したいと思います。

1.【デザイナーとしての領域】
私の仕事は「環境デザイン」という、まだ歴史は30年程度と浅く、定義も曖昧な領域です。領域、と言っていいのか?という疑問すらあります。したがって、以下は私の捉えている環境デザインについてです。
都市計画・土木・建築・インテリア・プロダクト・グラフィック...と私たちの生活環境は実に様々な職能領域による見えない境界で分けられ、思考され、計画されています。もちろん、日常生活でこの境界を意識することはほぼないことなのですが、この職能境界によって、私たちの暮らしや生活には、あたりまえになって感じなくなっている不都合が多々存在しています。人のふるまいや生活を起点として生活環境を見つめ直し、再構築することで、不都合は徐々に取りのぞかれ、生活環境の豊かさを実現できるのではないか。つまり、「人」を中心に、職能領域を横断的に捉え、つながり・関係性を意識して環境を思考する行為を「環境デザイン」であると考えています。

2.【環境デザインの社会的認知の壁】
近年、「人間中心デザイン」という言葉が良い意味で(と思っています)流行していますが、「環境デザイン」はずっとその考え方で行われてきたのです。ただ、「環境デザイン」は先にお話したように、社会においてその定義を広く曖昧にしてきたために、明確な言葉を持たずにきてしまいました。依然として、重要性の認知が低い状況にあると感じています。実際に、社会における様々なプロジェクトの中で、「環境デザイン」に関連する仕事は、土木や建築という確固とした専門性の中の一部門、「下請け」の扱いを免れてはいません。例えば建築においては多くの場合、計画の最後の演出・化粧のように扱われています。
私はこのことを重く受け止めてきました。「人」を中心にすえて考えるはずが、その「人」の核心に触れきれずに表層を飾ることを「環境デザイン」であるかのように扱っている残念な事例を目にするたびに、『なんとか変えたい』『どうしたらいいのか』を悩み続けました。まずは自分の仕事で。小さくても一つ一つの仕事を通して、自分の考えを社会に伝えていきたいと挑戦してきました。しかし、私のような者が行うことなど、たかが知れています。そこでデザイン団体に入り、運動としても表明していけないか?とも模索しました。しかし、長い歴史に支えられてきた職能を壊すことは当然のように容易ではありません。大小の挫折を味わいながら、「自分には何が足りないのか?」を考えるようになっていきました。

3.【仮説と検証】
仕事としてデザインを考える時、課題を抽出し、目的を設定し、その実現のための「仮説」を立て、計画し、具体化していきます。仕事は多くの場合、計画が完成すると完了します。そこで立てた「仮説」が想定通りだったのか?何が効いていたのか?何が足りなかったのか?等の「検証」を行うということがなかなかできないまま、次の仕事に移るわけです。いわば「仮説」を消費しているだけの状況。これでは、いくら重要性を説いたところで、社会に還元できるわけがありません。自分に足りないことは「仮説と検証」に取り組んでいないことなのだと、情けないほど時間をかけて気づいたのでした。

「学問」として捉える必要があるのではないか?
「研究」という取り組みが必要なのではないか?

もう遅いのではないか?今さらアカデミックに挑戦して何になるんだ!いや、違う。
これだけ時間がかかったからこそ、そこに進む意味を十分に感じているのでしょう?...
大学院に進もう、やっとこの思いに至ったわけです。

4.【東京大学大学院学際情報学府への興味】
環境デザインで進学候補を調べていくと、既成の学問領域の中で扱われている実態を知ることとなります。違和感をおぼえ、あきらめかけた時、そうだ!最高学府(誤用ですが。笑)を調べてみよう!と、バカ丸出しで、東京大学のwebに...。
大学院学際情報学府 を見ると、「...領域横断的な文理融合による新しい情報学の創造...」吸い込まれるような思いがしました。何日かおきにそのページを訪れては、スタンス(という表現は適切ではないと思いますが)に共感し、でも自分には無茶な話だとため息をつく日々。

5.【仕事仲間からの一冊の本】
時を同じくして、1年ほどもやもやしていたある日。仕事で大変刺激をいただいていた大先輩ともいえる方から「あなた、この本きっと面白いと思うよ」と一冊の本を手渡されたのです。
『「未来の学び」をデザインする 空間・活動・共同体美馬のゆり・山内祐平 著。
この本では「デザイン」を「目的、対象、要因、そこへ至るまでのプロセスなどを意識した活動」として、学習環境を構築するときの中心になる概念として使われていました。「つくって、語って、振り返る」ことの実践。...あぁ、これだ。腑に落ちる思いで巻末の作者プロフィールを見ると、作者のお一人である山内先生は学際情報学府の先生でいらっしゃいました。とにかくお会いしたい。お話を伺ってみたい。
そう思って、本をいただいた方に山内先生へのご紹介をお願いしたのでした。
真剣に悩み考え動いていると良いことって本当に訪れるものなんですね。(笑)


こうして私は山内先生と出会い、直接お話しする幸運に恵まれました。
最初に先生とお話しした率直な感想は「ひゃーなんて頭のいい人なんだ!」。
選ばれる言葉に何一つ無駄な要素がなく、的確で、私の言葉足らずの行間までお見通しのように、すぱっと鮮やかに回答くださいました。これはすごい方を発見してしまった!と自分の引きの良さに感激したほどです。
(この思いは、先生の意外なお茶目ぶりを発見する感動(笑)と共に、山内研に入ってからもますます強く確信されていくこととなります)

受験勉強、試験、合格...と無事に入学し、研究室に入ると、そこにはまた感動の先輩と同期の仲間達がいました。歳は若くても私にとっては先達です。こんな仲間に出会えたことも、一生の宝物だと思っています。

これまでの研究生blogからもおわかりのように、山内研メンバーのそれぞれの山内研との出会いは実に多様です。その多様な面々を柔軟に受け止め、厳しく、そして大きな優しさで選択肢や道を示してくださるのが山内先生です。

回り道(とも思っていないのですが)したからこそ、こうした出会いに恵まれたのだと、今までのすべてに感謝しています。

この連載、まだまだつづきます。次回以降もどうぞお楽しみに。

短くまとめるつもりがどうにも長くなってしました。
生きてきた時間が長い分、どうかご容赦くださいませ。
長文&拙文におつきあいいただきありがとうございました。

早川 克美

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