2012.02.18
みなさまこんにちは。
【読書感想文】シリーズのラストは博士課程2年の池尻 良平がお送りします。
僕が紹介するのはダーウィンの『種の起源』に見え隠れする、ダーウィンの議論の姿勢です。説明するまでもないですが、この本ではかの有名な「自然選択」という、当時としてはキレッキレの仮説を提唱しています。僕は生物学はド素人なのでその仮説の是非はわかりませんが、読んでいて彼の議論方法がとても僕には新鮮だったので紹介したいと思います。
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この本では最初の方で自然選択説を説明した後、6章の「私の学説の難点」と7章の「自然選択説に対するさまざまな異論」という章において、自分の仮説に対する他者の批判をきっちり引用した上で深く議論しています。例えば7章では、博物学者のマイヴァート氏が唱えた自然選択説に対する異論やダーウィンの考えとはそぐわない突然変化説を紹介しています。
「ほう。確かに他の仮説もごもっともだ。さて、ダーウィンはどう切り返すんだろうか」とワクワクしてページをめくると、彼は持ち前の「豊富な実例」をこれでもかと突きつけていき、自身の説では説明できるけども異論を唱える他の研究者の説ではうまく説明できないことを書き連ねているのです。
そもそも彼の自然選択説自体、かなりの数の生物を実際に調査し、比較検討した上で出した仮説なのです。つまり、かなりの高クオリティの帰納法で生み出し、演繹的にうまく筋が通るかを何度も検討した上での仮説なので、ちょっとやそっとの批判や異論を出されてもビクともしないわけです。逆に生半可な仮説を出してしまうと、その豊富な実例の前に論破されてしまうわけです。
この点に関してはリーキーという解説者も、「『種の起源』を読んで感心してしまうことは、ダーウィンが自分の説では説明はつくのだが、当時の従来の仮説では説明のつきにくい数々の事実や観察結果を集めてまとめあげていくというやり方の研究を積み重ねてきたことだ」と評価しています。
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僕の専門は歴史の学習方法の開発なので、自然の摂理を解き明かすアプローチとは異なるのですが、良い仮説や良い理論を作っていきたいという気持ちは同じです。実際、高校の授業を観察させてもらい、そこから帰納的に仮説や理論のヒントを得ることはあるのですが、ダーウィンに比べると見ている実例の数は全然少ないです、その上、他の高校生にも当てはまるのかを考察できる程高校の歴史学習の世界を知らないな〜と、読後に反省した思い出があります。
頭でっかちな仮説や理論ではなく、足を使ってよく観察した上で、何百年後でも人をひきつけるような良い仮説や理論を提唱できる研究者になりたいなと思います。
[池尻 良平]