2011.12.23

【読書感想文】未来をつくる図書館ーニューヨークからの報告ー


皆様こんにちは。
修士2年の土居由布子です。

いよいよ2012年まで10日を切りました!
明後日はクリスマスですが,今日からの三連休を皆様満喫されているでしょうか?

さて,第3回【読書感想文】として私が選んだ1冊は,私の進路に大きな影響を与えた、
菅谷明子「未来をつくる図書館ーニューヨークからの報告ー」です。

実は7年も前に読んだ本です。山内研究室の本棚には図書館に関する本がたくさんあり,その中にこの本もありました。この本を読むまでは図書館には全く興味もなかった私ですが,これを読んで大学の専攻を「図書館情報専門学群」に決めました。それほど衝撃的な1冊だったんです。

この本ではニューヨーク公共図書館のあらゆるサービスやその仕組みについて書かれています。図書館といえば「本を貸してくれる場所」と認識される方がほとんどだと思います。でも本書で報告されているニューヨーク公共図書館では,企業や芸術の支援,医療情報などが充実しているんだそうです。そしてニューヨーク公共図書館を利用する多くの人が「図書館がなかったら今の自分はなかった」と感じているそうです。地域密着の運営,独自のイベントやITを活用した情報提供はどのようにして可能なのか。個人の力を伸ばし,コミュニティを活性化させる活動とその意義が報告されています。図書館が揃える資料の数,図書館運営の為の資金の集め方,サービスのあり方,司書に求められること,そこで生まれるストーリー,何もかもが新鮮でした。

この本を読むまでは私も「図書館は本を貸してくれる場所」であってそれ以外のサービス等考えたこともありませんでした。ところがニューヨーク公共図書館でのサービスを通して様々なビジネス,文化,芸術が数多く巣立っていて,ゼロックスのコピー機やポラロイドカメラもその一つだというのです。

ニューヨーク公共図書館の一つで,多くの起業家を支援してきた「シブル」と呼ばれる「科学産業ビジネス図書館」について紹介されています。メキシコから無一文同然で移民してきた男性は,データベース,インターネット,レファレンスの助けを借りて情報収集し,更にこの図書館で開かれる無料セミナーでビジネスを学び,ネットワークを作り,情報交換して企業準備を進めてきたそうです。

この図書館の更なる魅力として紹介されている「NPOなど外部組織との提携サービス」の事例として,リタイアした元経営者らが無料でビジネスのカウンセリングに応じるNPOの「SCORE」とシブルが提携し,その出張所を館内に設け,あらゆる問題の解決をサポートしていることが紹介されていました。

このように様々なサービスが提供されていること自体驚きでしたし,そんな図書館なら是非行ってみたいと思った私でしたが,更に驚いたのは本著でシブルの図書館部長が優れた図書館サービスの必須条件として「豊かなコレクションに加えて,ユーザーとコレクションを結びつける優秀な司書の存在だ」と言い切っており,「司書は幅広い知識と専門性を持ち,情報収集や電子メディアが得意なだけではダメで,『企画能力』にも長け,『コミュニケーション能力』と『ネットワーク能力』を持ち合わせていること」だと言っていることでした。更にシブルの司書の条件として「ビジネスとは何かを理解し,実際に自分もビジネスをやってみたいと思うようなチャレンジ精神とリスクを恐れない前向きの人であればなお良い」とも語られたそうです。

それまで私は司書に企画能力やネットワーク能力などそれほど必要だと思ったことはありませんでした。「まじめさ」や「緻密さ」等,そういったことばかり想像していた私にとっては本当に意外な条件でした。ちなみに,アメリカで司書というのは「大学院で図書館学を学び修士号を収めた人」を指すそうです。その基準の高さにも驚きました。

この本を読んだのは高校三年生の夏で,ちょうど短期のオーストラリア留学が決まっていました。この本に影響されて,留学先のオーストラリア(ブルーマウンテンズ市)の図書館を訪ね,司書にインタビューをしました。同じように地元の図書館のサービスと司書の方の話を聞いて比較レポートを書きました。そして,これを機に当時志していた海外大学から筑波大学の「図書館情報専門学」に進路を変更したわけです。卒業後に1年間シアトルに留学した際も,シアトルの公共図書館を訪ね,サービスやシステム,建物や空間のデザイン,様々なイベント企画,レファレンスの対応の良さに驚かされました。元々図書館嫌いな私が「かっこいい」と思ってしまったほどです。図書館としての資料の豊富さも圧倒されましたが,図書館なのに,ミュージシャン達の無料コンサートが聞けることにびっくりしました。外観も内装もそこで開かれている活動も全部クリエイティブでした。私が声をかけずとも司書の方から私に近づいてきて一緒に必要な情報を捜してくれたことには感動しました。当時は院試にむけて,自身の研究計画をたてるために必死でしたから本当に助かりました。願書提出2か月前に思い立った状況だったので,不安だったのですが,それがやる気へと変わった出来事でした。本に書かれていたことは,ニューヨーク公共図書館に限らずで,本当に魅力的だと実感しました。卒業して研究者という立場を離れても,世界中の図書館を訪ね歩こうと思っています。

この本に出会ってなければ,「図書館」に興味を持って海外の図書館を訪れることも,「図書館」を専攻することもなかったと思います。映像制作ワークショップに興味を持つようになったのもその専攻の中で巡り会ったことです。そして今,インターネット上で映像を編集して作品を制作される人々の学びについての論文を書いておりますが,こないだのゼミの文献でも「図書館」がテーマになり,不思議な気持ちになりました。勝手な妄想ですが,就職後,何かの巡り会わせで図書館作りに関われるのではないかとかそんな気分にもなりました。

本は私たちの知恵や考え方,視野を広げると言われていますが,皆さんはどのような本に出会い,進路や人生観にどのような影響を受けられたでしょうか。

本が苦手な方もたくさんいると思います。私も得意ではありませんが,そんな私に素敵な本と出会わせてくれた母に感謝しております。「これからの情報化社会は図書館が基盤になる」といって母が紹介してくれた本がこの本です。

余談ですが,妹には「これからは都市計画が面白い」「地域活性化の鍵だ」といってそれらの本を読ませて,妹は現在都市計画を専攻し,建築関連を学んでおります。どこまで冗談なのか分かりませんが,私と妹で,いつか理想的な図書館をつくれとよく言います。とりあえず実家にある本(段ボール100箱分以上)を電子化して欲しいとか,そのデータベースを作って欲しいと言われます。笑

母がくれた1冊の本が,私の人生をどう誘うのか,これからが楽しみです。

それでは皆さん良いお年を!
Merry X'smas!!

[土居 由布子]


--参考--
*菅谷明子. (2003). 未来をつくる図書館--ニューヨークからの報告--
*Seattle Public Library, http://www.spl.org/

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