2011.12.20

【エッセイ】なぜ日本はデジタル読解力で4位なのか

12月17日(土)に、BEAT Seminar 「デジタル読解力を育てる情報教育」 を開催しました。当日の様子については、IT Proの記事になっていますので、ご参照ください。

今こそ必要な「デジタル読解力」、求められるのは「批判的読解」 東京大学大学院情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座(BEAT)セミナー

セミナーの中で聴衆のみなさまからいただいた疑問について、時間的に十分議論できなかったものがいくつかありますが、そのうちの一つが、「なぜ日本は学校のデジタル環境の整備や授業での利用が遅れているのに、4位なのか」という問題です。

前提として確認しておいた方がよいのは、このデジタル読解力調査が19カ国・地域を対象にして行われており、紙ベースのPISA読解力調査の65カ国・地域よりも少ないことです。紙ベースでは日本より上位にいるフィンランドやカナダが参加していませんので、参加国が変われば順位は変わる可能性があります。

ただし、参加国の変動を差し引いたとしても、日本の得点はOECD平均よりかなり高く、上位グループにいることは間違いありません。この点について説明可能な要因としては以下の2点があげられます。

1)紙ベースの読解力との高い相関
デジタル読解力は、ウェブ上にあるテキストを批判的に読み解く能力を測定しています。この能力の中には、ナビゲーションや情報ソースの批判的検討など、情報リテラシー、メディアリテラシー的な能力も含まれますが、核になるテキストの解釈は紙ベースの読解力と共通しています。そのため、紙ベースの読解力の成績の高い(65カ国中8位)日本は、デジタル読解力でもよい成績をとる可能性が高くなります。

2)自宅でのインターネット利用
OECDの分析によって、調査に参加した17 カ国及びパートナーの全てで、自宅でのコンピュータ利用はデジタル読解力の成績と関係しているが、学校でのコンピュータ利用は必ずしも関係していないことが明らかになっています。つまり、今回の結果は学校教育でのデジタル機器を利用した指導の成功を意味していません。日本の順位が高い理由のもう一つとして日本のインターネットインフラが世界的に見るとトップクラスにあり、子どもたちが自宅でケータイやPCなどにアクセスしていることが寄与している可能性があります。

また、順位が4位だとしても内実を見ると手放しで喜べる状況にはありません。デジタル読解力の習熟度レベルは5段階ではかられていますが、上位グループでレベル5以上の生徒の割合を見ると韓国(19%)、ニュージーランド(19%)、オーストラリア(17%)に対して日本は6%しかありません。これは、標準レベルのデジタル読解力がある生徒は多いが、高度で批判的なデジタル読解ができる層が極端に薄いことを意味しています。

今後、日本の学校において、デジタル読解力を育成するポイントは、ウェブにあるテキストを「字面として」理解するだけではなく、その背景にある意味を考え、自分なりの意見や考えを持つことにありそうです。

*デジタル読解力の定義や問題例、結果については、文部科学省「OECD生徒の学習到達度調査(PISA2009)デジタル読解力調査の結果」についてにまとめられています。

山内 祐平

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