2011.11.16

【エッセイ】可能性の選択と論文の構成

 今日は博士課程の学生が研究の進捗を発表する博士課程コロキウムの日でした。 博士論文は修士論文数本分のボリュームがあるため、構成が複雑になります。進捗とともに博士論文の構成について確認することも、博士課程コロキウムの重要な意義です。
 博士論文は大きくても一本の論文ですので、問題・目的・方法・結果という構造は変わりません。ただし「どうしてこういう構成になっているのか」という疑問は論文のスケールに比例して増えます。「どうして他の問題ではなく、この問題を切り出したのか」「この問題を明らかにするのに研究Aと研究Bで必要十分なのか」「研究Aではなく研究A'ではいけないのか」など、様々な可能性が疑問として提示されます。
 このような問いに答えるためには、様々な可能性の中からそのオプションを選択した理由を丁寧かつ説得的に答える必要があります。それができるかどうかは、実は先行研究の読み込みにかかっている場合が多いのです。
 先行研究をきちんとレビューし、研究の流れにおける自分の研究の位置づけがクリアであれば、他の問題ではなくこの問題を選んだ理由を他の研究を引用しながら答えることができます。また、自分が選択しなかったオプションについて、自分が今後行うべき課題なのか、別の研究者にまかせるべきなのかを推測することもできます。
 有限の時間で問題にアプローチする以上、解決できることにも限りがあります。ある研究を選び取るということは別の研究の可能性を捨てることです。ただし、研究者はコミュニティで仕事をしているので、捨てられた可能性は別の人が別の形で拾い上げることができます。その連鎖を保証するためには、その研究者が多くの可能性の中からその研究を選び取った理由も含めて論文を書く必要があるのです。

山内 祐平

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