2011.09.17

【気になる研究者】デューク・リチャード

みなさまこんにちは。

自分の研究に影響を与えている研究者を紹介する【気になる研究者】シリーズ、最終回は博士課程2年 池尻良平が "デューク・リチャード・D" をご紹介したいと思います。

 私が修士の頃、歴史を用いて未来の社会に対する選択肢を広げ、シミュレーションを行うという主旨の教材開発を行っていたのですが、そのための学習形式として最も適しているものが何かつかめず、苦しんでいた時期がありました。

 そんな時、彼の研究に出会い、まさしくゲーミングシミュレーションというコミュニケーション手法こそが今の歴史学習に適していると思い、今のゲーミング教材を作り始めましたという経緯があります。今回は私の研究に影響を与えてくれたデュークという研究者を紹介したいと思います。

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 デュークは1964年、ミシガン大学より博士号を取得し、1998年に定年退職するまでミシガン大学建築・都市計画学部教授を務めた方です(現在、ミシガン大学名誉教授)。ポリシーゲーミングの領域において、100以上のゲームを政府・民間企業向けに研究開発したり、約40か国に対してポリシーゲームの研究活動を指導したりしています。また、国際シミュレーション&ゲーミング学会を創立し、会長も務めた方です。

 彼は、新しい知識が次々と生まれて地球規模の問題が複雑化している今、全体認識を伝える必要性が高まっているという問題意識のもと、伝統的なコミュニケーションではなく、未来を語る言語(Future's Language)を用いたコミュニケーションが必要だと主張してきました。

 そして、ゲーミングシミュレーションこそがその未来を語る言語だとし、従来の伝統的なコミュニケーション形式と対比させながら、ゲーミングシミュレーションを用いたコミュニケーション形式についてまとめた方です。

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今回はその4段階のコミュニケーションモデルを簡単に紹介します。

●モデルⅠ:原始モードの一方向のコミュニケーション
身振りや手振り、叫び声を使った一方向のコミュニケーションです。例えば、手を使ったジェスチャーなどが該当します。

●モデルⅡ:発展的モードの対話
口語を使って電話などで対話を行うコミュニケーションです。送り手と受けては1対1 です。例えば、電話での会話などが該当します。

●モデルⅢ:統合的モードの多者間対話
マルチメディア(プロジェクターなど)やスライドを使って複合現実(複雑性、相互作用性、ダイナミックス性のいずれか、あるいは、すべてを備えたシステム)についての発表や議論を行い、多者間の逐次的な対話を行うコミュニケーションです。送り手と受け手は1対複数です。例えば、討論会などがこれに該当します。

●モデルⅣ:多重同時対話
基本的にはモデルⅢと同じなのですが、コミュニケーションを促進するために用いられる仕組みがまったく別物だと説明されています。そして、これこそがゲーミングシミュレーションによるコミュニケーションに該当します。図で表すとこちらのようなものです。(デューク 2001の図をもとに作成)

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 モデルⅢでは、複合現実のモデル(例えば、環境保護について議論するために自然環境をモデル化するなど)は構造化された文書や口頭発表を通じて参加者に伝えられ、これに対して参加者は、早い者順か、ランダムに指名されることで発言を行い、全体の議論が進行されていきます。司会者は議論の混乱を避けるために、私語を慎むように注意したり、主催者側が意図しない意見を抑えたりする必要があるため、参加者同士のコミュニケーションは行われません。結果、個々の人間は全く同一の現実について言及しているにもかかわらず、異なる枠組みでその認識を構造化するようになります。

 一方で、モデルⅣのゲーミングシミュレーションでは、複合現実のモデルは事前にゲーム構造(地球を救うゲームなど)として参加者に伝えられています。さらに参加者はある特定の観点をもった役割(農家やビジネスマン)になりきるのが望ましく、その設定のなかで特定の論理的な制約に準拠して行動することが要請されます。このように、環境保護などの全体システムにかかわる議論は、ダイナミックな関係を意識させる状況が導入されることで促進されているのです。

 皆さんもゲーム形式のコミュニケーションを取っている時、色々な会話が同時に飛び交っているにも関わらず、散発的にならない経験をしたことはないでしょうか?それは噛み合ない議論とは違っているはずです。これはパルス(プレーヤー同士のメッセージ交換を誘発する目的で、ゲーム中にプレーヤーに提示される課題、論点、代替案、情報)によって、話す内容のベクトルがデザインされているからです。ただし、このようにゲーミングシミュレーションを用いたコミュニケーションを促すためには、ゲームのデザインが必須になってきます。このノウハウについては、参考文献をご参照いただければと思います。

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近年、より複雑で予測が困難な世界に対応できるような能力が必要になり、同時にそれを育成する教育が求められるようになってきています。今後、ゲーミングシミュレーションというコミュ二ケーション方法はどんどん必要になると思います。

私も未来を語るための歴史学習の開発に向けて、一役買えればと思っています。

*参考文献
デューク, R. D. 著, 中村美枝子, 市川新訳(2001)ゲーミングシミュレーション未来との対話. 凸版印刷. 東京.
[池尻 良平]

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