2011.09.08

【気になる研究者】クルト・レヴィン


みなさま、こんにちは。博士1年の伏木田稚子です。
自分の研究に影響を与えている・もしくは今後学びたいと考えている研究者を紹介する【気になる研究者】シリーズ、第10回目はクルト・レヴィン(Kurt Lewin)についてお送りいたします。


■□社会心理学の父、レヴィンの生涯■□
 レヴィンは1890年ドイツのモギルノ(現在はポーランド領)に生まれ、1909年~1914年までベルリン大学にて学んだ後、1916年に学位が授与されました。1927年~1933年まで同大学で教授職に従事しましたが、ユダヤ系心理学者であったレヴィンはナチスの台頭に伴い、1933年にアメリカに亡命しています。その後、1936年よりアイオワ大学で特に児童心理学を担当し、1945年にマサチュセッツ工科大学(MIT)に招かれてグループダイナミックス研究センターを主宰しました。
 生活空間に代表される場の理論の考案や、リーダーシップも含めた集団力学(グループダイナミクス)の発展、社会問題の実践的解決を目指したアクション・リサーチの提案など、その研究業績は多岐にわたります。
 主な著書には、『パーソナリティの力説学』、『トポロジー心理学の原理』、『心理学的力の概念的表現と測定』などがあり、『社会的葛藤の解決』が出版される前年、1947年にマサチューセッツ州で亡くなりました。

■□生活空間と場の理論■□
 レヴィンは、人と環境とが相互関連しているひとつの場の構造を「生活空間」と定義しました。それは、ある一定時の人の行動を規定する条件の総体を指しており、個体的条件と環境条件の両方を含んでいます。具体的には、個体的条件とは、個人の性格や能力、経験値のことであり、環境条件には物理的・心理的環境や組織の風土などが該当します。
 つまり、パーソナリティー(P)とエンバイロメント(E)の両方によって人の行動(B)は大きく影響を受け、ある人が主観的に経験するところの心理的環境の全体が「生活空間」であるとレヴィンは表現しました。人の行動は、人と環境との関数関係として提示しうるものであり、その関数関係を明らかにしたものが心理学的法則であると考えられています。

■□の理論と学習■□
 レヴィンは、学習と呼ばれるものの中で、少なくとも以下に示す類型の変化を区別する重要性を示しています。
(1) 認知構造の変化としての学習:知識
(2) 動機づけの変化としての学習:好嫌の学習
(3) 集団所属性の変化またはイデオロギーの変化としての学習:文化内で成長してゆく重要な側面
(4) 身体の筋肉を有意的に統御する意味の学習:言語や自己統御といった熟練を獲得するひとつの重要な側面
 "以前よりは、よりよくできるようになること"という広い意味においてとらえられる学習の過程を、心理学者は心理学的な本質によって分類し、取り扱うべきであると述べられています。

■□力学的全体としての集団■□
 集団を定義する際、レヴィンは集団成員の力学的相互依存を重視すべきであると強調しています。それまで集団は、成員間の態度の類似性にもとづいて定義されることが多かったのに対して、非常に高度の統一をもち体制化された全体が、きわめて少ない類似性を包含することは例外ではないとレヴィンは指摘しました。その上で、目標や感情、経済的依存、愛、居住領域など、成員の相互依存にもとづく集団は、従来の類似性・非類似性によって説明される集団とは異なるものであると述べています。


 後世にも大きな影響を与え続けているレヴィンの理論は、ここでは紹介しきれないほど多岐にわたります。その中でも、人の行動は他の人や周囲の環境との相互作用によって影響を受けながら変化していくものであり、その相互作用こそが集団を形成しているという大きなものの見方に、わたしは強い魅力を感じています。
 レヴィンの残した研究業績をこれからも地道に追いながら、人と人とがゼミナールというひとつの集団の中で学ぶ過程を研究し続けたいと思っています。


---参考文献---
Lewin, K., & Cartwright, D.(eds.) (1951) Field Theory in Socail Science. Nueva York, EUA : Harper & Brothers.
(猪股佐登(訳)(1956) クルト・レヴィン 社会科学における場の理論.東京:誠信書房)


【伏木田稚子】

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