2011.08.19

【気になる研究者】クリストファー・アレグザンダー

みなさま、こんにちは。修士1年の早川克美です。

【気になる研究者】自分の研究に影響を与えている・もしくは今後学びたいと考えている研究者を紹介する本シリーズ、第7回目をお送りいたします。

今回はクリストファー・アレグザンダーについてご紹介させていただきます。

クリストファー・アレグザンダーについて
Christopher Alexander (1936年10月4日〜)はウィーン出身の都市計画家・建築家です。彼はイギリスで育ち、ケンブリッジ大学で数学の修士号と建築学の学士号を取得後、アメリカに渡り、ハーバード大学で建築学の博士号を取得し、現在までカリフォルニア大学バークレー校の教授をされています。
『NOTES ON THE SYNTHESIS OF FORM,1964』
『A city is not a tree, 1965(邦題:都市はツリーではない)』
などの著作をつぎつぎに発表し、建築理論家として名をはせました。一方、1967年に環境構造センターを設立、数々の建築プロジェクトを手がけ、1977年には、それまでの研究成果をまとめた著書『パタン・ランゲージ』を著し、まったく新たな建築理論を提出、建築パラダイムの再構築をはかりました。日本では、その理論を元に、盈進学園東野高校(埼玉県入間市,1984年)が建設されています。

アレグザンダーの理論:パタンランゲージとその時代のコンテクスト
1960年〜70年代、モダニズムの行き詰まりや誤りに遭遇している時に、都市や都市活動の有機性を損なってはいけないという論点において、様々な提案が出てきました。都市計画家・建築家でありM.I.T教授であったケビン・リンチは、「The Image of the City,1960(邦題:都市のイメージ)」において、人間の空間認識において重要な記号を 5 つに分類し、エッジ、ノード、パス、ランドマーク、ディストリクトといった体系にまとめ、イメージアビリティという新しい基準を提案し、イメージを与える環境のあるべき姿について示そうとしました。この都市デザインを構成する手法は、現在も非常な影響力を持って受け入れられ、今もなおその手法は使われています。
また、現象学的地理学者であるイーフー・トゥアンは、環境と人間との情緒的なつながりを「トポフィリアー場所愛」という概念で提唱し、人間を主体として扱う環境整備の論拠を明示しています。
ケビン・リンチの弟子でもあるアレグザンダーは、「A city is not a tree,1965」で「都市は階層的に構成されるツリー構造ではなく、様々な要素が絡み合って生成されるセミラチス構造である」ことを説き、その後のポストモダンの都市論に大きな影響を与えました。そしてこれを受けて1977年にそれまでの研究成果としてまとめた「パタン・ランゲージ」は、複雑系理論による都市計画論として体系化したものです。セミラチス構造であることに基づいてデザイン手法をネットワーク状につなげて総合的なデザインを展開するための良書ともいえます。冒頭章の「町」において、「piecemeal growth:漸進的成長」というキーワードをあげて、漸進的に生成していく都市の構成を前提とした都市計画を提唱しています。都市計画の理論体系において、今まで想定されることのなかった「複雑系」を応用したこの論は、都市デザインやまちづくり関係者に参加のデザインの手法などにより、意識形成や議論において非常な影響を与えたことは間違いないでしょう。

パタン・ランゲージとソフトウエア開発の関係
実はこの本は、ソフトウエア開発者にもバイブルとなっているそうです。「A city is not a tree,1965」におけるセミラチス構造と共に、IT技術者の必須知識である「オブジェクト指向」「ソフトウエア・パターン」という考えが生まれるきっかけとなっていることは大変興味深いものがあります。

これからの研究について
私の研究は、「学生が学びの空間を理解し活用していくプロセスを探求し、学びの空間パターン原則を導き出したい」ということです。リンチ、トゥアン、アレグザンダーが表した空間の概念は今もなお学ぶべき示唆に富んでいます。一方で、現在は私的な趣味や個性といった「個」が強調され、個人における公共空間からの孤立は、社会との関わりを希薄にさせ、私的空間へ埋没していくのではないか?という危惧があります。
その時代ごとのコンテクストで空間の扱いは変化してきています。
学びも社会からの要請を受けつつ日々変容しています。
これからの学びを空間から支援していけることは何か?
学習者の実態に迫り、学習者を主体として扱う学習環境整備のありかたとは?
学習環境デザインにおける学びの空間への意識を探ることで、学びのコミュニティが活性化する空間の創出へと進化させていきたいと考えています。

おつきあいいただきありがとうございました。

<参考文献>
クリストファー・アレグザンダー(平田翰那訳)1984
『パタン・ランゲージ』鹿島出版会
ケビン・リンチ(丹下健三・富田玲子訳)1968『都市のイメージ』岩波書店
イーフー・トゥアン(山本浩訳)1988『空間の経験―身体から都市へ』筑摩書房
イーフー・トゥアン(小野有五・阿部一訳)1992『トポフィリア』せりか書房
江渡浩一郎,2009『パターン、Wiki、XP〜時を越えた創造の原則』技術評論社

PAGE TOP