2011.08.03
こんにちは。修士1年の末 橘花(すえきっか)です。
【気になる研究者】自分の研究に影響を与えている・もしくは今後学びたいと考えている研究者を紹介する新シリーズ、第6回目をお送りいたします。
今回は「オーラル・ヒストリーの父」と呼ばれるポール・トンプソンをご紹介させていただきます。
ポール・トンプソンについて
ポール・トンプソンは1935年イギリスで生まれ、1964年にエセックス大学に社会学部の社会史講師として就任しました。そこで20世紀初頭の社会史を書くように依頼を受けたとき、初代社会学部長だったピーター・タウンゼンドに、「歴史研究にインタビューを使ってはどうか」と勧められたことが、オーラル・ヒストリーを始めるきっかけになったそうです。当時は、オーラル・ヒストリー(口述史料)を歴史学に取り入れることはほとんどなく、マイノリティや女性史、労働史など社会学の領域からオーラル・ヒストリーは発展しました。ポール・トンプソンは、オーラル・ヒストリーの学問的構築に貢献し、歴史方法論としてのオーラル・ヒストリーと、その具体的な方法について彼の著書である"The Voice of the Past"(邦題:記憶から歴史へ オーラル・ヒストリーの世界)にまとめています。
オーラル・ヒストリーの教育的な活用
ここでは山内研らしく、オーラル・ヒストリーを教育に引きつけてみてみましょう。トンプソンは、オーラル・ヒストリーを学校教育などで用いる場合、母国語、社会、環境学、地理、宗教学、総合科目をさまざまなやり方で、5歳から18歳にかけての社会的・知的発達段階で教えるのに役立つと述べています。また、授業でオーラル・ヒストリーを扱う際はオーラル・ヒストリー・プロジェクト(テーマ選択からグループ編成、機器の準備と用法、インタビューの方法、記録の発表方法、保管や出版まで組織的なプロジェクト)として用いるのがよいとされています。その際に得られるスキルとしては、以下4点が挙げられます。
①調べる技能:インタヴューから文献調査へと向かうこと
②言語技能の発達:適切な質問文の作成、表現力の育成、および、人の話を聞いて、それを理解し、解釈すること
③機器を使いこなす技術、資料を展示する技術
④基本的な社会的スキル:コミュニケーション能力、ほかの人の話を聞くこと、話し手を気楽にさせること、話を聞くこつや忍耐
更にいうなれば、オーラル・ヒストリー・プロジェクトを進行させることで、人々に自分の住む場所の歴史への関心を呼び起こさせ、その場所の優れているところを認識させることができるので、子どもたちが地域やコミュニティ単位での歴史を追っていくのに役立つと言えるでしょう。
これからの研究について
私自身は、オーラル・ヒストリー・プロジェクトをベースにおきつつも、よりインタラクティブなインタビューができるような学習プログラムを開発したいと思っています。また、現状の歴史教育や学校教育で行われる高齢者による講演やインタビューを用いた授業では、話を聞くことにとどまっている場合も多いので、プロジェクトとしてオーラル・ヒストリーを活用することで上記のようなスキルが子供たちに身につくようなプログラムにしたいと思っています。
<参考文献>
ポール・トンプソン、酒井順子訳「記憶から歴史へ オーラル・ヒストリーの世界」青木書店、2002年