2011.07.06

【エッセイ】単位システムとしての大学

先週一週間、リスボンで開かれた国際会議 ED-Media 2011に出席してきました。

主な目的は、現在BEATで行っているソーシャルメディアによって高校生・大学生・社会人をつなぎ進路について考えるSoclaプロジェクトについて発表するためだったのですが、各国の研究動向がわかるのも国際会議の醍醐味です。

いくつか面白い発表があったのですが、最も意外だったのが以下の研究でした。

Student Demographics and Retention in Online Learning Environments

Wallace Boston, Ed.D. President and CEO American Public University System United States
Phil Ice, Ed.D. Director of Course Design, Research and Development American Public University System United States

Abstract: As the growth of online programs continues to rapidly accelerate, concern over retention is increasing. Models for understanding student persistence in the face-to-face environment are well established, however, the many of the variables in these constructs are not present in the online environment or they manifest in significantly different ways. With attrition rates significantly higher than in face-to-face programs, the development of models to explain online retention is considered imperative. This study moves in that direction by exploring the relationship between student demographics and interactions, and retention at a large online university, with an n of 20,569. Analysis of data illustrated the importance of transfer credit and consistency of activity in predicting continued enrollment.

アメリカの大学は中退が多く、学業継続率 (Retention rate)が大きな問題になっています。対面の大学ですら中退が多いわけですから、100%オンラインの大学ではこの問題は深刻です。この研究では、2万人のオンライン大学の学生の学業継続率に寄与する要因を統計的に分析しています。

結論が意外だったのですが、学業継続に最も影響を与える因子は「単位互換の有無」でした。アメリカの大学は単位互換システムが発達していますが、オンライン大学が他大学でとった単位を繰り入れられるかどうかが、学業継続に大きな影響を与えているというのです。他大学の単位を繰り入れることができれば、学習しなければいけない量が少なくなりますので、負荷が低くなります。そのため学業継続がしやすくなったものと考えられます。

当然と言えば当然に見えますが、他の要因を押さえてこの項目がトップになったことはコロンブスの卵的なところがあります。
従来、オンライン大学の離脱を防ぐ研究開発は、学習状況の可視化やファシリテーションを方法とするものが主流でした。ある意味、オンライン大学の中でこの問題を解決しようとしてきたわけです。
この研究から示唆されていることは、大学を一種の単位システムとしてとらえ、その中にオンライン学習を位置づけるという逆転の発想がありうるということです。現在アメリカでは、学外の経験学習を単位として認定する単位認定機構も出てきています。学外の経験学習・オンラインでの知識獲得・対面での高次思考スキルの育成を単位システムでつないで、全体として大学を構築するということが、現実的になりはじめているのかもしれません。

山内 祐平

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