2011.07.09

【気になる研究者】Henry Jenkins

皆様

こんにちは、修士2年の土居由布子です。
既に7月となり2011年もあと半年ですね。
さて、この度のテーマ【気になる研究者】自分の研究に影響を与えている・もしくは今後学びたいと考えている研究者を紹介する新シリーズ、第3回目を担当します。
 今回はHenry Jenskins氏についてご紹介させていただきます。
宜しくお願い致します。

<Henry Jenkins氏と理論について>

1958年にアトランタに生まれ、今メディア教育の分野で注目されている学者。「参加文化型のメディアリテラシー」として11のスキルを提唱。
マサチューセッツ工科大学比較メディア研究科の責任者を2009年4月まで務めており、その際にマッカーサー財団からの助成を受けて、デジタル環境が子どもに与える影響を研究し、同研究グループの研究成果に基づいて教育カリキュラムを開発することに取り組まれ、その一連の活動を『参加型文化の課題に立ち向かう(Confronting the Challenges of Participatory Culture)』にまとめられています。Jenkins氏によれば、彼が「参加型文化」と呼ぶものにアメリカの10代は能動的に参加し、そうすることで彼らはこれまでのメディアとのつき合い方を変化させつつあるといいます。

Jenkins氏によると、参加型文化とは「新たなコンテンツを作ったり広めたりするところへ能動的に参加するよう人々をいざなう文化」と説明されています。
具体的に言えば、SNSやWikipedia等がそれにあたります。そういったコミュニティや文化は多くの人々が互いに情報を共有しあい、またある情報を調べる時の助けとなる場所/ツールであり、共通の問題を解決することを目的とした人々の集まりによって形作られています。このような参加文化型における人々の恊働や参加を促し成り立たせる条件としてJenkins氏は以下5つの条件を述べております。(砂川2009訳)

1) 芸術的表現や市民活動に対して比較的に壁が低い。
2) 創作や他人と創作物を共有するための強力な支援がある。
3) なにより経験によって分かることが初心者達に伝えられる、一種の非公式な指導がある。
4) 自分たちが貢献することが意味を持つと信じているメンバーがいる。
5) お互いにある程度社会的つながりを感じているメンバーがいる(少なくとも、メンバー達は自分達が創作したものについて他人がどう思っているのかを気にかけている。)

以上の条件が揃うことによって人々がお互いの違いを越えて他人との恊働しやすい空間となるとされています。

この文化、空間の中で私たち参加者がより十全的参加者となって課題を達成して行く為に必要な11のスキルについて述べています。

1) 遊ぶ:問題解決の形式として周りにあるものを試してみる潜在的可能性
2) パフォーマンス:即興や発見の目的のために代替的なアイデンティティを採ることができる力
3) シミュレーション:現実世界のプロセスのダイナミックなモデルを解釈し構築できる力
4) アプロプリエイション:メディアコンテンツを意味があるようにサンプリングしリミックスできる力
5) 複合的作業: 周りの状況を読み取り、際立つものひとつ一つに焦点を移すことができる力
6) 分散認知:精神の潜在的可能性を拡張するツールと意味あるように相互に影響しあうことができる力
7) 集合知:知識を溜めることができ、そして共通の目的に向かって他人と考えを比較できる力
8) 判断:異なる情報の信頼性を評価できる力。
9) トランスメディアナビゲーション:多様な様相を横断してストーリーや情報の流れを理解することができる力。
10) ネットワーキング:情報を検索し、広めることができる力
11) 交渉:多様な観点を見分け尊重し、そして代替的な基準を把握し、理解しながら、異なるコミュニティを横断して行くことができる力

この参加型文化には既に多くの子ども達が参加し活動を行っていて、中には11のスキルをうまく運用していく力を比較的容易に獲得してしまう子どももいる一方で、こうした力を身につけることが困難な子どももいるかもしれず、従って、Jenkins氏は参加型文化のメディア教育を行っていく上で「参加格差」「透明性の問題」「倫理的課題」の3点を課題として考察されています。

参加格差:子ども達が新しいメディアテクノロジーにアクセスしたり、表現するための機会へのアクセスに差があること

透明性の問題:子ども達は自らのメディア経験を能動的に内省しており、それゆえ参加することで学んだことを明瞭に言い表すことができると想定していること

とされています。

<自身の研究について>

これまで「批判的な読み取り」を中心としてきた映像教育、メディアリテラシーですが、制作するノウハウをどのように一般人が身に付けようとしているのか、何がきっかけだったのか、とりわけ初心者がどのように映像に関する活動をしているのかについて実態調査をしようとしています。
本研究ではNHKクリエイティブライブラリーという「映像素材の選択と組み合わせ」で映像の簡単な編集ができるツールを使っているユーザー達に着目し、そこから他にどのような学習へと派生しているのか、どういった意識を持つようになったのかをみようとしています。
Jenkins氏のいう11の参加文化型のメディアリテラシーやその課題3つを受けて、日本の映像文化に参加する一般人がどういった切り口から何を想い、どのような行動をとるのか明らかにすれば、学校などでメディアに関する教育を受けていない大人達がどのように映像リテラシーを培って行くべきかの提案に繋がり、更に具体的な課題も抽出できればと思います。

<参考文献>
Henry Jenkins (2009)
Confronting the Challenges of Participatory Culture: Media Education for the 21st Century

砂川誠司(2010).「参加型文化」論からみたメディアリテラシー教育の提唱
http://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/metadb/up/kiyo/AA11618725/BullGradSchEduc-HiroshimaUniv-Part2_59_133.pdf

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