2011.06.24
みなさま、こんにちは。修士2年の菊池裕史です。
今週から、自分の研究に影響を与えている・もしくは今後学びたいと考えている研究者を紹介する新シリーズ、【気になる研究者】をお送りします。
第1回目はシーモア・パパートについてご紹介させていただきます。
シーモア・パパートとは
みなさまは、シーモア・パパート(Seymour Papert)という方をご存知でしょうか。パパートは1928年生まれのアメリカ人であり、数学・計算機科学・発達心理学などに関する研究を行ってきた方です。彼は1980年に出版した著書『Mindstorms: Children, Computers, and Powerful Ideas(日本語版:マインドストーム)』の中で、「コンピューターが人々の考え方や学び方をどのように変えていくか」ということについて述べています。パパートは、1980年当時には考えられなかった「コンピューターが一家に一台ある」という学習環境を仮定しながら、コンピューターを利用した学習についての主張を行っています。彼は、コンピューターを利用した学習方法として、コンピューターが学習者を管理するCAI型の学習を批判し、学習者がコンピューターを支配し、考える道具として利用することを提案します。また、そのような学習を実現する手段としてLOGO言語を開発し、コンピューターとの対話により数学的概念を学ぶ方法を提案しました。
パパートの研究を引き継いで
話は変わりますが、僕は子どもがデジタル教材を利用して英語学習を行う際に、どのように振る舞い、どのように学習を達成していくのか、ということに興味があります。パパートの研究と関連させながら、自分が現在行なっている研究について記してみたいと思います。
先ほども簡単に触れましたが、パパートが『Mindstorms』を著した1980年には、個人がコンピューターを所有することなどは、まったく考えられないことであったようです。パパートはそのような状況の中で、「もしコンピューターが個人の私的所有物となったら、教育はより私的な活動となり、教育の思潮にルネッサンスをもたらすかもしれない。」と述べています。それから約30年が経過し、現代の先進国を取り巻くコンピューター環境は大きく変化しました。一家に一台のコンピューターがあることなどは、もはや驚くべきことではなく、一人で複数台のコンピューターを所有することなども、普通であると言えるでしょう。それでは、パパートが『Mindstorms』を著してから30年が経った現在、実際にコンピューターは人々の考え方や学び方をどのように変えたのでしょうか。
残念ながら、その答えはわかりません。しかし、現代を生きる子どもたちがコンピューターを利用して学習する、その振る舞い方は、1980年に子どもたちが行っていたものとは異なっていると言うことができるでしょう。パパートの「コンピューターが人々の考え方や学び方をどのように変えていくか」という研究テーマを疑問と捉え、僕は「わからないけど、それについて真剣に調べてみます!」と回答したいと思います。
教材開発と調査の繰り返されるループ
それでは、実際に僕が貢献できることとは何なのでしょうか。そもそも、子どもたちのデジタル教材を利用した学習を支援するためには、何が必要なのでしょうか。人によってたくさんの答えがあるとは思いますが、僕は、(1)新しいデジタル教材の開発と、(2)開発した教材の利用状況の調査、を繰り返すことがとても重要であると考えています。つまり、新しい教材を開発し、その教材が子どもたちにもたらす「モノ」を調査し、その調査結果を新たな教材開発へとフィードバックするという「循環するプロセス」が重要であると考えています。この終わりのないプロセスを丁寧に積み上げていくことこそが、時代に適応した学習教材を生み出していくことに貢献するのではないでしょうか。
話は過去に戻りますが、僕が山内研を受験した2年前、その研究計画書には「マルチタッチディスプレイを利用した英語教材を開発したい」と書きました。ニコラス・ネグロポンテも1995年に出版された著書『Being Digital』の中で、入力装置としての指の可能性について述べていますが、僕も彼と同様に、マウスやスタイラスペンではなく、自分の指を入力装置として使うことが、子どもたちに新たな学習体験をもたらすのではないかと考えました。僕はいま、開発は行っておりませんが、iPad教材を利用する子どもたちが困難に直面したときに、いかに親に支援を求めるのか、ということについての調査をしています。パパートが提起した「コンピューターが人々の考え方や学び方をどのように変えているのか」という、時代と共に引き継がれていくテーマについて、少しでも現状を明らかにできる研究ができたらいいなと思っています。