2010.08.12

【学びのキーワード】デジタルストーリーテリング

みなさま,こんにちは。修士2年の帯刀菜奈と申します。
学習や教育に関連するキーワードを解説する【学びのキーワード】シリーズ!
第2回のキーワードは「デジタルストーリーテリング」です。

■デジタルストーリテリング=デジタル版紙芝居
デジタルストーリー(Digital Story) とは,制作者がコンピュータなどの
デジタル機器を利用し,画像(デジカメ画像,スキャナで取り込んだ写真や絵,マウスで書いた画像など) を,制作者自身が録音した語り(ナレーション,英語では「語り」はnarrative) でつなげていく「お話」です。
そのストーリーを制作・発表することを,デジタルストーリーテリング(Digital Storytelling) といいます。

■学習科目への導入:日本史編
Elizabeth Anne Yeager and Frans H.Doppen2001によると,一般的な歴史教科書で歴史を学ぶ生徒は,教科書の記載事実をそのまま受け入れ歴史上の人物の気持ちや行動要因について考慮しないと規定されています。
これまでの我が国の教育では,一斉指導型授業が主流で,知識が身に付いたかどうかはペーパーテストで,「単語レベル」での正誤判定が行われてきました。
(例えば,歴史の授業で,「江戸幕府が開かれたのは何年?」→「1603年」といった具合。) 
教育,特に歴史教育においては,このような単語レベルでの知識の発信ではなく,「文章レベル」「文脈・背景レベル」での幅広く奥深い発信型知識が必要であり,それを育成しなくてはいけません。(須曽野ら2006)
ストーリーテリングは,単語レベルでの知識の発信と組み合わせることでそれを可能にすると考えています。

「文章レベル」「文脈・背景レベル」での幅広く奥深い発信型知識を考察するにあたって,歴史的共感(contextual historical empathy)が必要だと考えます。
歴史的共感は,Berti, Baldina and Toneattia,2009によると,彼ら(歴史上の人物)の価値観や考え方を身につけることで,過去の人や社会的慣習を理解することである,となります。そして,それは次のような発展段階をたどります。

第1段階 Divi(愚かな)過去  過去の制度や行動を知的なものとして
とらえられない
第2段階 一般的なステレオタイプ  人の行動原理をステレオタイプに当て
はめて判断している
第3段階 日 常 的 共 感    過去の出来事や個人の動向を自分自身
の価値観に当てはめる
第4段階 限定的な歴史的共感    過去の人の価値観や信条,目標が我々
と異なっていた視点を持てる
第5段階 文脈上の歴史的共感    人物を取り巻く社会を理解することが
できる

デジタルストーリーテリングの制作は学習者の日本史への共感段階を高める可能性を持っているのです。

■デジタルストーリーテリングの効果

・ストーリーテリングにより構成主義の学習能力を得る。
  さらにグループ(班)化することで,協働作業や協調活動を重視
する社会的構成主義の学習論が展開される。
・デジタルストーリーテリングの多様な制作によって,個人やグル
ープ(班)の,設定に対するストーリーの理想像を具体化させる。
・昔の写真,デジカメ画像,手描きの絵などの静止画をつなぎ合わ
せ,ストーリーを作ることで,個人やグループ(班)のオリジナ
ルな意見の表現につながる。
・同一設定における複数グループの制作発表で,それぞれのストー
リー文脈を比較し,他者(グループ)との相違を認識させる。
 ・Webにアップすることで,他者の意見や考え方を受け止め,制作が
よりステップアップされるシステムが構築される。

■デジタルストーリーテリングの作り方
1.テーマに対してリサーチ(調査)を行う
2.その結果からストーリーを絵コンテという形におこす
3.写真や絵といった資料をスキャニングしてデジタル化する
4.絵コンテにそってナレーションを録音し,デジタル化されたデータ(写真や絵)と合わせる

こうして,1つのテーマに対して1-2分の作品,デジタルストーリーテリングが完成します。
それぞれの発想やリサーチ結果によって,まったく違った作品が出来ることが予測されます。
世界でひとつあなただけの物語が映像に残るのです。

■続きは制作体験で
研究の一環として,10月にワークショップを開催いたします。
デジタルストーリーテリングに興味をもたれた方
(もっとも高校生に限るのですが)は,是非ご参加ください。
お待ちしております。

■おススメ図書
やまだようこ『人生を物語るー生成のライフストーリー』ミネルヴァ書房,2000.

[帯刀菜奈]

PAGE TOP