2010.06.26
みなさま,こんにちは。
M2の伏木田稚子です。
【研究者の仕事術】第4回は,特任助教をされている椿本さんにインタビューに伺いました。
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文章評価の研究で博士号をとられた椿本さん。
現在は,文章産出モデルの一部をもっと詳細に表すことはできないか?という視点から,そのプロセスにおける「寝かせ」による認知的な効果を,質問紙調査によって明らかにしようと試みられています。
分量があり,論理構成がしっかりしていて,頭と時間を使って書くような文章,例えば書籍の原稿や論文などを対象に,書き終わらずに寝かせている間,人々の認知過程では何が起こっているかを探っているとのこと。
寝かせた後,修正がはかどるのはなぜ?改編を思い切ってできるのはなぜ?という単純な疑問が研究の鍵となっているそうです。
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今回は,文章を書くこと,それを読むことに強い関心を持たれている椿本さんに,アイディアの書き留め方から情報の整理,そして研究に対する姿勢や頭と時間の使い方に至るまで,ざっくばらんにお話いただきました。
少々,記事が長くなっていますが,どうぞごゆっくりとお読みいただければと思います。
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●○紙とペンは必需品。アイディアを「書き留める」ことへのこだわりとは?
Q1. アイディアが浮かんだとき,そのアイディアを残しておきたいとき,どうされていますか?
ごはんを食べているとき,誰かと研究に関係ない話をしているとき,お風呂に入っているとき,ふっとアイディアが浮かぶことってありますよね。そういうとき,すぐにノートに書き留めます。相手に「ちょっと待って」と言ってね(笑)大学時代は,生協で売っている大学ノートを,今は少し小さめのノートをいつも持ち歩いています。
Q2. 「書く」ことがポイントなのでしょうか?
そうですね。書いているとアイディアがもっと思い浮かび,考えていることの整理もできます。アイディアを湧かせたり,深めたり,残しておいて後で見返したいときにノートは向いています。付箋に走り書きをしたメモも清書はしないで,そのままノートに貼ります。エッセンスが抜けないよう,生のまま残しておきたいのです。
Q3. 例えば,どのように「書いて」おくのでしょうか?
研究をいくつか並行して進めているときは,どのネタがどの研究に使えるかわからないので,研究ごとにページを分けてただただ時系列に書いていきます。ときどき見返して,必要なときに必要な部分を使う。そのときの関心に使えるかどうかだけが大事なのです。ここにメモがある,ここにないメモはしていない。そうわかっているからこそ,何かネタがないかな,ちょっと詰まってきたなと思ったらこれを見ます。論文を読んでいて,大事だなと下線を引いたところもノートに書き留めます。本文を読み返したいときに迷子にならないよう,論文の出典(著者と年代)はしっかりと書いておきます。
●○思い出すヒントを未来の自分に。研究も情報もファイルごとに整理整頓。
Q4. 論文の話が出ましたが,研究に関連する文献はどのように管理されていますか?
これから読む論文は,リストを作ってPCに保存しておきます。すでに読んだ論文は,プロジェクトごとにファイルを作って,その中にどんどん入れていきます。今は,BEAT,自分が関わっている科研費プロジェクト,自分の研究の3つのファイルに分類しています。読んだ論文の表紙には,その論文のポイントをメモして貼っておく。そうすることで,思い出すヒントを未来の自分に与えられるのです。
ファイルの中は,特に整理をしていません。整理に時間を使い過ぎるのはもったいない。がさがさ触っているうちに,使えそうな論文は前の方に,今はまだ...というものは後ろの方に,自動的に分かれていくような気がします。
Q5. いつ頃から,今のようなスタイルで取り組まれているのでしょうか?
卒論のときは,それだけに集中すればよかったのですが,修士に入ってから仕事がぶわっと増えて混乱したのがきっかけです。後輩の研究の手伝いや,自分の研究,当時お世話になっていた赤堀先生のプロジェクトなど,自分の中にいくつかファイルがあるなぁと感じるようになっていきました。
頭の中が研究ごとに分かれている場合,論文の管理も同じようにしておくと,頭の中と現実世界の対応がつきます。迷う時間が少なくなるのです。そのため今では,複数の研究で必要な論文は,その数だけ印刷をしてすべてのファイルに入れておくようにしています。
Q6. 複数のファイルがあると,バランスを取るのが難しそうですが・・・?
たまにファイル間で情報を比べると,関係性が見えてくる気がしています。各ファイルは独立しているのではなく,その全体がわたしの研究なのです。各研究に取り組む時は,そのことだけを考えています。けれども,ちょっと離れて俯瞰して見ると,複数のファイルが自分の中にあることや,研究全体に対する自分の考え方に気づくことができます。
大学院の頃,「寝ても覚めても研究だ」と赤堀先生に言われ続けました。土日,正月,クリスマスはないんだ,と(笑)その頃は,先生の言葉の意味がよくわかっていませんでしたが,最近になってようやく,1000時間考えて一瞬ひらめいた,それが大事,それが命と感じるようになってきました。どれだけ考えても足りることはないんですね。
●○オンとオフの繰り返しを支えるのは「楽しい」という気持ち。
Q7. もう考えられない!というときはどうされていますか?
何も考えなくていい作業も研究には必要だと思っています。体調が悪い,お腹が空いている,嫌なことがあった,そういうときでも,仕事は進めなければいけません。そういうときのために,頭を使わなければいけない仕事と,頭を使わなくてもいい仕事の両方を持つようにしています。機械的にこなす仕事に無心で取り組んでいると,だんだん頭が活性化してきて,ちょっと頭を使う仕事もやるかという気持ちになります。実は,そういう手だけ動かす仕事も好き。進んだという達成感は重要ですね(笑)
基本的には,トータルで研究が進めばいいと思っているので,頭を使わなくてもいい仕事にはあまり時間をかけないように,なるべく早く頭を使う仕事に移れるようにしています。どうしようもないときは,何もしません。休むのも仕事,そう思ってひたすらスイッチをオフしていれば,またやりたくなるし,やらざるを得なくなるものです。そうしたらスイッチをオフする。その繰り返しです。
Q8. オンとオフの繰り返しの日々,研究が嫌になることはありませんか?
プロジェクトが忙しいときは,自分の研究の比重を少し落として,仕事に集中します。落ち着いたら,また自分の研究に戻ります。日々やることは違います。大変さや楽しさも微妙に違いますが,どれも楽しい。詰まるときも,逃避したくなるときもありますが,嫌にはなりません。つまらないと自分が思うことはやっていないからでしょう。調べることが退屈ということもありません。知りたい!と思ってやっているからです。
卒論の頃から,テーマを自分で自由に見つけて良い環境にいたので,好きなことをどんどんやらせてもらっていました。もちろん研究は1人ではできません。先輩や先生,ときには後輩に相談して進めていきました。一人だったら息詰まるときもあったはず,周りに恵まれていたので楽しく思えていたのでしょう。みんなが楽しんで研究できる環境と,自分が好きなテーマに取り組むことができる状況。ラッキーですね,その波にうまく乗れているような気がしています。
●○研究を支えているのは,人や時間の「グラデーション」
Q9. 大学院の頃も含めて今も,周りの人々の存在は大きいのでしょうか?
大学院時代に,研究の相談をさせていただいた先輩や先生は,今でも一緒に研究をしたり,飲み会をするなど,関係が続いています。それは財産ですね。学部時代,教育心理学を専攻していたので,修士に入ってから教育工学の考え方に馴染むのが大変でした。道筋が見えず,赤堀先生に言いたいことが通じなくて,ゼミの後に泣いたこともありました。初めての学会発表の前夜,「これは教育心理学のまとめ方だ」と言われて「前日にそんな・・・」と落ち込んでいたら,やさしくて面倒見のいい先輩たちが夜中の3時,4時まで付き合ってくださって。教育工学の話の運び方,つまり学問の背景に溶け込ませるということを徹底的に教えてもらいました。ほとんど寝ずに発表をしましたが,聞き手に話が通じて報われました。すごくうれしかったのを今でも覚えています。
その頃も今も,研究をめぐってプロジェクトメンバーと喧々諤々の議論をするのは変わりません。いい研究をしたい,こういうことを明らかにしたい,その気持ちがあるからこそ,なのです。「君違う!」「あなたこそ違う!」そういう議論もなくゆるい場合は,これで結果が出るのだろうかと不安になります(笑)。
Q10. みんなで研究を進めていく,そういうスタイルを大切にされているのでしょうか?
みんなで相談していいものをつくる,そういう考え方は院生時代も今も変わりません。情報学環で働き始めた年の6月に,スイッチをオフできないまま仕事をしていてダウンしました。そのときに考え方が変わりました。研究はみんなで一緒に進めるものだから,みんなのことを考えて休めるときには休まないと,と。1人でやる研究もありますが,みんなで話しながらいいものをつくるというスタイルが私にとっては普通になっています。そのやり方が好きだし,馴染んでいるのでしょう。
もちろん,自分で考える時間とのバランスも大切です。1人で集中する時間と,みんなで分担してアイディアを出す時間,そういうものがうまく分散されているといいのかなと感じています。その2つはきれいに分離せず,混ざっている部分もありつつ・・・そうですね,グラデーションみたいなものではないでしょうか。1日の中で,プロジェクトの期間ごとで,うっすらと分かれているグラデーション。理想としては,そのバランスを保ちながらやっていきたいですね。
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編集後記:
日頃わたしがうつうつと悩んでいることも織り交ぜながら,研究に必要な心構えや,時間と頭の使い方を伺ってまいりました。
自分に合うやり方を見つけるまで,何度となく向き合わなければいけない壁。
それをひとつひとつ乗り越えた先に,椿本さんが教えて下さったようなあり方を見つけることができればいいなと思いました。
お忙しいところ,ありがとうございました。
[伏木田稚子]