2010.06.04

【研究者の仕事術】山内祐平 准教授

みなさま、こんにちは。修士2年の安斎勇樹と申します。

今週から身近な研究者の仕事術や研究ノウハウを紹介する
新シリーズ【研究者の仕事術】をお送り致します!

第一回は、修士2年の安斎勇樹が山内祐平先生にインタビューしてきました!

今回は初回ということもあり、山内先生ということもあり、研究者がどのように仕事(キャリア)をつくっていくのか?研究テーマはどのように見つけるのか?という広い意味での「研究者の仕事術」を中心にインタビューしてきました。

※本記事は要約しています。要約無しのロングバージョンはこちら(リンク切れ)※


研究者としてキャリアをどうデザインするか

【安斎】
現在掲げている研究テーマ『学習環境デザイン論の体系化』に至った経緯を教えて下さい。

【山内先生】
現在の研究テーマを掲げたのは、10年くらい前からですね。もともと学習環境デザインの研究をやろうと思っていたか、と言われればNOです。修論でマルチメディア教材を開発していた時は、まさか自分が空間についてやるとは思ってもいませんでしたね(笑)

もちろん漠然と空間が学習環境に意味を持っていることは認識していましたが、空間について研究するようになったのは、やはり美馬のゆりさんが「はこだて未来大学」を作った影響が大きいです。自分と近い美馬さんが出来るということは「僕も出来るかも」と思ったのがきっかけですね。


偶然と選択がキャリアをつくる

【安斎】
それから徐々に研究対象をシフトしていったのですか?

【山内先生】
進化論的な話になるんですが、僕は空間の研究は確かにやりたいとは思っていたのだけど、そのために戦略的にものすごく努力をして...というわけではなくて、同時多発的に起きたいくつかの選択と仕事の積み上げが、自分の志向性と相まって、最終的に「福武ホール」に結晶したという感じです。

もう少し具体的に説明をすると...、まず、1990年代後半にフィールドワークで入った萱野小が、たまたまオープンスクールだったんですよ。そこでは空間が色々な使われ方をしていて、そこで空間に関する基礎的な知識が身につきました。

その後、2005年の3月にBEAT Seminarに来て頂いたセンベンさんのつてで、MITのTEALを見学したんです。その時に「なるほど、僕らがやってきた人工物の研究と、空間はこういう風にフュージョンするんだ。これなら僕でも出来る」と思ったんです。

丁度その頃に、空間に興味を持っていた丸善から共同研究の依頼があり、その頃に「福武ホール」の話も立ち上がった。それと同時に、駒場からKALSのデザインの案件の依頼が来たんです。2007年にKALSをデザインし、2008年に福武ホールが完成した。

つまり、戦略的に空間の研究をしていったというよりも、いくつかの仕事を、自分のやりたいことに基づいてセレクションしていった結果、今がある、という感じですね。

ノウハウも知名度もない領域で何か新しいことをやろうとしたら、自分が既にある程度持っているものをベースにして、それに近いものを手繰っていくのが合理的な方法ですよね。だから、偶然の出会いや偶然の仕事が流れていく中で、自分のやりたいことに関係するものをどうセレクションしていくか...というのがキャリアをつくっていく方法なのだと思います。


研究テーマの発見法

【安斎】
個別の研究テーマやアイデアはどのように見つけているのですか?

【山内先生】
これは研究領域によってかなり違うと思います。が、私は「この3年間で新たに立ち上がってくる研究領域はどこだろう?」ということを常に考えています。その為に、様々なニュースソースから、今まさに他の領域で起きつつあるパズルのピースを探すんですね。そして、3〜5年くらいで来るであろう領域、つまり「要注目領域」を常日頃からいくつか見つけておくようにしてるんです。その中から、自分が強い領域に隣接していて、かつ成長するであろう領域を研究テーマとして選びます。


大学院時代は関心を深め、「核」を見つけよ

【安斎】
なるほど。自分の関心の赴くままではなく、社会の動向に目を向けて研究の種を探すんですね。

【山内先生】
ただし、博士課程の大学院生は、社会的な動向に対して意識的であった方が良いとは思いますが、大学院時代は出来るだけ自分の興味関心を大事にして深めながら、一生使えるような「核」になる何かを1つ2つ小さく成功させたほうが良いでしょう。そして、それをその後の人生で水平展開したり垂直展開したりして、仕事をつくっていけば良いんです。


本はアウトプットの時に読む

【安斎】
先生の創造的な仕事の数々は、強力な知識基盤の上に成り立っていると感じます。先生は現在は書籍や文献はどれくらい読んでいるんですか?

【山内先生】
僕は本を沢山買っていますが、読まないんですよ。目次を見て、ざっと眺めて、本棚に入れてしまうんです。本を真剣に読むのは、アウトプットの時だけなんです。その代わり、アウトプットの時にどれを読めば良いのか、というインデックスだけいつも作るようにしてるんです。書く時にだけ集中して、関係する部分をいっぱい読む。そういう意味で、僕はまじめな研究者ではないかもしれない(笑)

【安斎】
それは、目次を読んだ時にある程度中身がわかるから出来ることなんですか?

【山内先生】
うん、それはあるかもしれないですね。目次と内容をパラパラ見ているだけで、だいたいどこを読めば良いかわかります。

その代わり、僕は中学生から大学生の間は、やたらめったら本を読んでいました。特に中学生の時に哲学書を沢山読んだのが役に立っています。正直、当時は全くわかっていなかったけど、ものの考え方や姿勢とか、難しい文章にどう格闘していけばいいのか、身体で身に付けていった。そうやって中高生の頃からまじめに本を読んでいた経験が、今の読書スタイルの基盤となっているかもしれない。


Twitterで最新の情報を収集する

【安斎】
現在はどのように情報収集されているのでしょうか?

【山内先生】
主にTwitterです。これまでブログやGoogle検索で見ていたものは、ほとんどTwitter経由に変わりましたね。ソースは僕のTwitterのリストを見て頂ければわかるけど、海外のニュースソースでリストを作っていて、毎朝それを確認しています。国内の情報は、僕がフォローしている国内の研究者の方から流れてくるので、意識的に海外のソースを見ていますね。

【安斎】
Twitterだけで十分な情報が集まっていますか?

【山内先生】
そうですね。この人に情報が集まってくるだろうという人をフォローしておくと、僕が欲しい情報は山のように入ってくる(笑)これは楽で良いですよね(笑)Googleでキーワード検索するとやたらめったら出て来てどれを拾えば良いかわからないけど、やはり人のフィルターは非常に強いですね。


【安斎】
最後に、先生のカバンの中身を見せて下さい!笑

【山内先生】
何もないよ(笑) 申し訳ないけど色気も何もない中身です(笑)

画像(リンク切れ)

MacBook、iPhone、ペン、emobile、名刺入れ、延長コード(無印良品)
※適宜これに手帳とか書類が加わる

【安斎】
お忙しいところどうもありがとうございました!

---
編集後記:
山内先生のキャリアや業績、そして現在の情報収集・管理の技術は、学生時代に培ったものが基盤となっているのだな、と感じました。博士進学、そしてその後もアカデミックポストを志望している学生として、現在山内研究室で過ごしている時間が、将来、研究者として仕事をしていく上での「核」をつくっている重要な時間なのだと実感しました。今回学んだ仕事術を参考にしながらも、気を引き締めて毎日の研究生活を過ごしたいと思います。


※本記事は要約しています。要約無しのロングバージョンはこちら(リンク切れ)※


[安斎 勇樹]

PAGE TOP