2010.01.29

【ylabと私、この1年】「面白い」を目指して(池尻)

大好評だった【山内研の食卓!】も一回りし、
このメンバーでblogを更新するのも今年度最後になりました。

そんな今年度最後のテーマは【ylabと私、この1年】
メンバーがそれぞれの目線で4月からの1年間を振り返ります。
トップバッターは毎度おなじみ、M2の池尻がつとめさせていただきます。

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修士1年は「現代に役立つ歴史の学習方法を作るぞ!」から始まり、
「歴史の因果関係を現代に言い換える」学習方法をデザインする、
というところまで決まりました。

そうして修士2年を通して完成したのが、
2人対2人で歴史を現代に置き換えていき、
現代の因果関係を作るのを競い合うカードゲーム、"historio"です。

画像(リンク切れ)


修士2年は「歴史の因果関係を現代に言い換える」のコンセプトを
どうしたら「面白い」教材にさせるかを考えた1年でした。
そして、この"historio"をきっかけに色んな人と出会い、
色んなことを学ぶことができました。

ここではそれを紹介したいなと思います。


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■「面白い」と「学習効果」の両立(4月〜6月)

「一見矛盾しているように聞こえるかもしれないけどよく聞いてね。
学習効果が上がるロジックを保ったまま、それとは別に魅力あふれる、
面白いゲームを作って下さい。」

山内先生のこの言葉が、僕の教材作りに課せられたテーマでした。

4月〜6月はこの両立を目指し、教材を改良しては大学院生にやってもらう、
を繰り返していたのですが、ゲーム的な面白さを優先すれば学習内容が歪み、
学習内容を優先すれば「これ、面白いと思う?」と言われ、
大スランプに陥っていた時でした。
 
「面白いって何だ?」
考えても考えてもいいアイデアは浮かびません。
気分はまるで売れない芸人のよう。
「もう思いつかない...面白さって捨てたらダメなのか...」
そう思うこともありました。

そんなスランプを乗り越えるきっかけが、
大先輩でもある立命館大学の八重樫先生の研究室へのデザイン修行でした。
学部生と一緒に3日間みっちりイラストレーターの使い方や、
そもそもデザインとは何かを教えてもらいました。

この修行を経て、「ゲームっぽい要素」や「見た目がきれい」から
面白さを生み出すのではなく、「面白い学習活動をデザインして、
それをまっすぐ教材のデザインに落とす」ことが大事なんだと学びました。

これをきっかけに、頭の中で高校生が楽しくゲームしている様子が
イメージできるようになり、ようやく"historio"に学習と矛盾することのない
「面白い」を加えることができるようになりました。


■「面白い」のパワーを実感する(7月〜)
そんな"historio"をご厚意で初めて実践させていただいたのが佼成学園高校でした。
実践自体は反省点も多く、改善の余地だらけだったのですが、
高校生がとても笑いながらゲームをしてくれ、
先生にもとても喜んでいただけたのが本当に嬉しかったのを覚えています。

そして、「面白い」のパワーを実感できたのはこの後からでした。

高校生が楽しそうにゲームをし、白熱した議論をしている写真を
見せられるようになってからは、約2時間かかる活動にも関わらず、
高校や大学の先生から「面白そうだからうちでもやらせてみたい」と
言っていただく機会が増えたのです。

また学会発表の時や他の色々な場面で、まだまだ未熟な研究にも関わらず
多くの人が興味を持ってくれたのにも驚きました。
 
「ああ、笑顔って広まっていくんだなあ」と感じた瞬間でした。


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僕はずっと、教育で大事なのは筋の正しさだと思っていました。
どんなに勉強が辛くてもどんなに苦しい勉強でも、
それが生徒のためになるのであれば必ず教育に反映されるべきだと考えていました。

でも、

楽しそうな生徒の写真を見たときの先生の表情、

学習効果があるかわからなかった時でも
他校の生徒の笑顔を見て「やってみたい」と言ってくれたこと、

反省点だらけの実践でもニコニコしながら「彼らがこんなに楽しそうに、
うるさいくらい議論するなんて知らなかった。それだけでも良かった。」
と言ってくれたこと、

陳腐な表現かもしれませんが、
教育で一番大事なのは生徒への「愛」なんだなと思いました。

もちろん学習効果や教育の筋の正しさは大事ですが、
きっとその学習に生徒への愛がなければ、
先生方をはじめ、人の心に届くことはないんだろうなと実感した1年でした。

そして教材が愛を引き出す鍵は、先生方が大切にしている生徒の笑顔を作れる
「面白さ」があるかどうかなんだろうなとしみじみ感じました。


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馬鹿みたいな発見かもしれませんが、社会のシステムとしてしか
教育を考えられなかった僕には、すごく実りの多い1年でした。
この1年、「面白さ」を追究し続けて良かったです。
山内先生、ありがとうございました。

また、協力いただいた先生や生徒以外にも、
多くの人からアドバイスをもらい、論文を書くことができました。
お世話になったみなさんも本当にありがとうございました。


今後も公教育で笑顔を生み出せる「面白い」教材を作れる研究者を
目指して頑張りたいと思います。

今後ともよろしくお願いします。


(追記)
ちなみに僕自身は眉間にしわを寄せっぱなしの1年でした(笑)
ただその分、笑顔になれた瞬間は格別でした。
もう一生研究はやめられないと思います。

[池尻 良平]

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