2010.01.26
修士1年の伏木田さんが、「ゼミ」を研究テーマに選び、様々な文献をレビューしています。現在修士2年の岡本さんが「研究室」について研究していますが、ゼミも研究室と同じく身近でありながらあまり研究が行われていない領域です。
もともとゼミナールという授業の形式は、中世において口述と記憶が中心だった教育を改革するためにドイツで生み出された方法で、19世紀に普及しました。1812年当時のベルリン大学の「言語学ゼミナール」は以下のように運営されています。
ゼミナールの目的
:古典学研究の準備をしている者に対して、学問の基礎に至るための多面的訓練を与えること
学生の採用
:8名(後に10名に増加)に限定、厳格な選考試験の実施
ゼミナールの活動:演習と報告検討会の2種類、ゼミナール専用の文献資料室で行われた
演習
:毎週2時間ずつ
:ギリシャ・ラテンの作家の作品についての批判的解釈を行う
報告検討会
:2週間に1回、夜間に開催
:学生がラテン語で論文を作成→事前にゼミナール構成員全員に配布(全員読んでおく)
※論文作成には8週間があてられ、威厳を正確に遵守することがゼミナール参加者の義務
※報告、討論はすべてラテン語で行われることを通じて、ラテン語の会話能力が訓練される
ここにあげられているように、ゼミは人文領域のエリートのための厳しい訓練と実習の場でした。その後、学部の多様化によって理系に広がり、研究や論文執筆の指導も行われるようになりました。最近ではプロジェクト学習的な自由ゼミも増えてきています。
この200年でゼミの形は大きく変わりましたが、いまだにゼミは多くの人たちをひきつけています。その理由はいろいろあげられると思いますが、個人的にはゼミが「正答」を前提にしない開かれた討論の場であることが大きいと考えています。
正答を前提としない討論の場は、感情を揺り動かす知的な対決が行われます。意見のぶつかりあいを解釈するためには批判的思考が必要になり、相手を説得するためには高度な論理的思考とコミュニケーション能力が求められます。そういう意味では、最近はやっている「アクティブラーニング」の源流といってもよいかもしれません。
ゼミは大学教育において重要な役割を果たしているにも関わらず、講義に比べて教育方法や評価に関する研究が少ない領域です。200年の間に形態が多様に分化していることや複合的な能力育成を目標としていることが背景にあります。
いずれにせよ、今後100年の大学教育を考えたとき、ゼミや実習を発展させた形態の授業がより重要になってくるのは間違いありません。ゼミの新しい形を想像することは、大学の未来をデザインすることなのです。
[山内 祐平]