2009.12.07

【エッセイ】キンドルと電子教科書

アマゾン・キンドルを買いました。キンドルはいわゆる電子書籍端末のカテゴリーに入りますが、携帯電話のネットワークにも接続でき、どこでも書籍を購入することができます。詳しいレビュー記事はこちらからご覧になれます。
実際に使ってみると、想像以上によくできています。電子ペーパーを利用しているので、画面は非常に美しく、ちょっと見たところ、プラスチックに印字しているのではないかと見間違えるクオリティです。また、販売している電子書籍は紙版の半額程度で、最近の円高もあいまって、専門書が1,000円程度で購入できるのは衝撃的です。ウェブにもアクセスでき、最近のアップデートでPDFも読めるようになりました。
アメリカでは、電子書籍端末の人気が上がっており、大学や図書館などで、電子教科書の利用に関する実験プロジェクトが始まっています。また、韓国では初等中等教育に電子教科書を導入する計画が進んでいます。
電子書籍端末は個人情報端末として長期的に大きな可能性を持ったデバイスだと思いますが、個人的には電子教科書として普及するレベルには達していないと考えています。
現在の端末は、紙と同等のインタラクションを備えていません。ブックマークや下線をつける機能はありますが、カーソルで指定するタイプで、ペンや指などで自然にできるようにはなっていません。教科書は情報を入手するメディアであると同時に、考えながら書き込み、知識と相互作用するためのメディアでもあります。「自然に汚せる」ところまでインターフェイスが発達しないと、今まで情報端末に触れたことがない層のユーザーまで巻き込むのは難しいと思います。教科書に載っている著者に不謹慎な落書きができないと、情緒的にも受け入れられないでしょう。
また、学校で使用する場合はバッテリの問題もあります。キンドルは通信さえしなければ2週間バッテリが持ちますが、通信しているとみるみるバッテリが減ります。無線LANへのアクセスもできるようにした上で、通信していても24時間バッテリが持つところまで改良しないと、電源ケーブルが邪魔になって使えないでしょう。
画面のカラー化や反応速度の向上など、技術的に改善すべき事はたくさんありますが、最大の問題は端末の価格です。現在のキンドルの価格は$259(日本円で25000円ぐらい)ですが、1万円を切るレベルにならないと、全員に配布するのは難しいと思います。(逆に言えば、このレベルになると、紙の教科書よりも電子教科書の方が安くなり、一気に普及が進む可能性があります。)
個人的には、これらの条件を満たして、電子教科書が普及段階に達するのは10年後の2020年前後であると考えています。電子教科書の普及は、実は教科書の問題にとどまらず、全ての国民が情報端末を等しく持つという、情報基盤の完成を意味します。この大きな可能性をつぶさないためにも、研究開発レベルではない本格的な導入には、あえて慎重な立場をとるべきではないかと考えています。

[山内 祐平]

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