2009.10.29

【学びの大事典!】「歴史的共感」

みなさん、こんにちは。
様々な学習理論をわかりやすく紹介していくシリーズ【学びの大事典!】
第5回は、修士1年の帯刀が担当させていただきます。
今週のテーマは「歴史的共感」です!

 韓国李明博大統領と日本の鳩山由紀夫首相による首脳会談が、10月9日に行われました。
李大統領は、
「韓日の協力関係は両国だけでなく北東アジアの平和と繁栄に向けても非常に緊要だ。近くて近い両国関係への発展を目指し、緊密に協力していこう」と呼びかけ、これに対し鳩山首相は、「新政権は歴史を直視できる政権。未来志向的な両国関係はアジアだけでなく世界の経済と平和のためにも重要だ」
と共感を示しました。(#1)
現在及び未来が、過去の継承...つまり歴史によって紡がれていくことを示す好例といえます。

 歴史学は、過去の社会や出来事を、批判的・共感的・多角的に分析し理解する学問です。
現在への鮮明な問題意識なくして歴史学は成り立ちませんが、同時に過去への深い洞察と知識なくして、現代を充分に理解することも、未来を予測することも出来ないのです。
歴史を事象の記憶にとどめず、より深く理解するための助けとなる学習の概念が、歴史的共感です。
そこで今回は「歴史的共感」について考えてみましょう。

歴史教育において、どのようにすれば学習者を歴史的共感へ導くことが出来るのでしょうか。
新井眞一(北海道大学大学院教育学研究科教育方法学研究室)氏は、『歴史教育における「同感(共感)」の位置づけ』(#2)において、想像力が重要だと言います。
歴史的な事象が起こるに至った社会的な事情と同じような事情を、現代の私たちが経験することはできません。(時代が違うのですから。)
 しかし、「自分自身の経験」を動員することによって「事情あるいは機構や立場」といった「おかれている境遇への想像力」を働かせることは不可能ではありません。この想像力の助けを借りることで歴史を築いてきた人々の動機に寄り添うことが出来るのです。

以上のような想像力を働かせるためには、想像力を掻き立てられるような事実が示される必要があります。
起きた出来事にだけスポットを当てるのではなく、その時の社会的事情、その事象がそこに導かれる境遇こそ大切なのです。
プロセスを共通して認識することではじめて、歴史的事象(事件、文化、行為等)が想像できるというわけです。
新井氏は、アダム・スミスの『道徳的感情論』を考察しています。
アダム・スミスが生き生きと描いた「近代市民社会の人間のポジティブな面」が社会との関わりの中で考察、理論化されることは、探求する価値のある"過去の人間の活動"を「無数の行為」である歴史の事象の中から導き出し、私たちに提供してくれると考えています。
境遇という事象に至るプロセスを知る、あるいは見ることによって共感を得られるのです。

歴史が、暗記教科から脱却するための重要なカギは「歴史的共感」の学習概念にあります。
そのためのファクターである想像力を掻き立てることにおいて、教科書に準ずるだけでなく、もしくは文字だけではなく、多角的な表現方法を用いる教授の可能性が広がるとは考えられないでしょうか。

鳩山首相は、「新政権は歴史を直視できる政権」だと言いました。
歴史を直視するためには、歴史を理解していなくてはなりません。
今後このような歴史における学習概念を土台とした歴史教育の盛り上がりが期待されます。

(参考)
#1 日韓首脳会談
http://news.goo.ne.jp/article/yonhap/world/yonhap-20091009wow011.html
(2009年10月25日)

#2 新井眞一『歴史教育における「同感(共感)」の位置づけ』
教授学の探究, 22: pp.215-234,2005

【帯刀菜奈】

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