2009.10.16
みなさん、こんにちは。
様々な学習理論をわかりやすく紹介していくシリーズ【学びの大事典!】.
第3回は修士2年の岡本絵莉が担当いたします。
今回紹介するのは「実践共同体の中の学び」です.
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実践共同体の中の学びを説明する前の前提として、ちょっと歴史の話になりますが...
1980年代頃に始まった「状況論的アプローチ」と呼ばれる研究の流れがあります。
このアプローチで「学習」というテーマに立ち向かった研究者たちは、それまでのように、「学習とは、個人が知識を獲得すること」という考え方をしませんでした。
そうではなく、「学習とは、周囲の社会的システム(人間関係、道具...)全体に分かちもたれて達成されるもの」と考えたのです。
<分かりにくいので例を使って説明します>
私は今、山内研究室の中で日常生活を送り、修士の研究をしています。(物理的にも、精神的にも。)
研究室に来てから1年半が経ちましたが、そこで私は研究室の中の人間関係(先生、先輩、同級生、後輩...)や道具(本、パソコン、言葉...)を使いながら研究を進めてきました。
その中で、私自身も変化しています。
たとえば、研究室に来たばかりの時とは、研究室の中での人間関係が変わってきています。
たとえば、研究室に来たばかりの時とは、私自身の自分に対する見方も変わっています。
たとえば、研究室に来たばかりの時とは、研究や研究室での生活についての熟達度が変わってきています。
こうした私の変化は、研究室というコミュニティ無しでは成立しませんでした。
...というより、これは研究室というコミュニティ(共同体)への「参加」そのものです。
このように、ある個人の学習を、あるコミュニティへの「参加」として捉えるのが、実践共同体の中で学びを考える研究者の立場です。
そして「参加」していく先のコミュニティのことを、実践共同体と呼んでいます。
実践共同体って、組織とは違うの?チームとは違うの?という話は難しいのですが、あえて説明を試みてみます。
確かに私は学生として大学組織に「所属」してはいますが、そこに私が「参加」していると言うにはやや単位が大きすぎますし、他のメンバーと共有しているものが少なすぎます。
また、例えば研究科対抗のソフトボール大会のためにチームが結成されたとしても、それは大会が終われば消えてしまい、そこに継続して「参加」することは現実的に難しいでしょう。
実践共同体と、そこへの参加として学習を捉える理論を提唱したウェンガーという研究者は、自身の理論は、ある前提にもとづいて、学習のある側面を語っているものである、としながらも、
「実践共同体はどこにでもある。それは"学習"というなじみ深い経験を体系的に語る上で役に立つ。」
と言っています。
日常生活の中で常に起きている学びについて私たちが考えてみる上で、有用な概念だと言えると思います。
参考文献:
・Etienne Wenger,1999,Communities of Practice: Learning, Meaning, and Identity,Cambridge University Press
・ジーン レイヴ・エティエンヌ ウェンガー(著), 佐伯 胖 (翻訳) ,1993,状況に埋め込まれた学習―正統的周辺参加,産業図書
・ケネス・J. ガーゲン (著), 東村 知子 (翻訳) ,2004,あなたへの社会構成主義,ナカニシヤ出版
[岡本 絵莉]