2009.10.02

【学びの大事典!】「転移」

みなさん、こんにちは。
今週から、様々な学習理論をわかりやすく紹介していく新シリーズ【学びの大事典!】が始まります。記念すべき第1回は修士2年の池尻良平が担当させてもらいます。

今回紹介する学習理論は「転移」です!

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■「転移」ってなに?
 まず、転移を体験するための実験をしてみましょう。次の文章を読んでみて下さい。

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「あなたは、胃に悪性の腫瘍がある患者を受け持つ医者です。患者に手術をすることはできません。けれども、なんらかの手段で腫瘍を死滅させなくてはその患者は死んでしまいます。その手段の1つとして、放射線治療が考えられます。一度に強い放射線を照射すれば、悪性の腫瘍を死滅させることができますが、同時にまわりの健康な細胞も破壊してしまいます。弱い放射線を照射すると、健康な細胞には危険はありませんが、悪性の腫瘍には効果がありません。悪性の腫瘍を死滅させ、なおかつ健康な細胞を破壊しないためには、どのような方法で放射線治療を行えばよいでしょうか?」

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 さてみなさん、答えは浮かんだでしょうか?浮かばなかったらここからが本番です。解けなかった人は次の文章を読んでみて下さい。
(ちなみに実際の実験では、この段階で正しい答えを導けた人はごく少数だったようです。)

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「将軍は、国の真ん中にある要塞をなんとか占領したいと思っています。その要塞からは、たくさんの道が四方八方に出ていて、すべての道には地雷が埋められています。このため、小隊ならばその道を安全に渡ることができますが、大きな隊になると地雷を爆発させてしまうおそれがあります。したがって、全隊での総攻撃は不可能です。そこで、将軍がとった方法は、軍隊をいくつかの小隊に分け、各隊を違う道から進めて要塞において集結させることでした。」

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 さて、ここで先ほどの放射線治療の文章に戻って、腫瘍を死滅させる方法を考えてみて下さい。...どうでしょうか?答えが浮かんできたでしょうか?

 もし放射線治療の文章だけでは答えが浮かばなかったのに、要塞の文章を読んで答えが思い浮かんだなら、学習の「転移が起こった」ということになります。
 このように、転移とは、「人の先行する経験と知識が、新しい状況における学習あるいは問題解決に影響したときに起こる」現象だと定義されています。
(ちなみに答えは「弱い放射線を複数の角度から当てて、腫瘍のところで交わるようにする」です。)

■学習目標のゴールとしての転移
 私たちが学校で知識を暗記したり、特定の問題を解けるように訓練する目的は、それを応用して社会で役に立たせるためです。しかし、学校で知識を使う訓練をしてきた状況と、社会で知識を使う状況は同じとは限りません。
 例えば、上で読んだ要塞の文章を学校で習っていても、実際の手術の場面でこれを思い出して活かされなければ、学校で覚えたことも無駄になってしまいます。
 だからこそ教育の最終目標として、以前学習した内容を新しい状況で使えるようにさせる、つまり「転移を起こす」ことは重要だと考えられてきました。実際、転移を促進させる条件を探る研究は100年前から行われ、重要な知見や問題点がどんどん発見され、今なお論争を生む研究領域になっています。

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 最近では、あらゆる教科で「活用」という言葉が重視されるようになっていますが、生徒が活き活きと知識を使えるような学習をデザインする際には、おそらく「転移の促進条件」というキーワードは外せなくなると思います。
 じゃあ、どうやったら転移を促せるの?転移にはどんな困難があるの?転移の評価はどうするの?といった疑問を持った方は、ぜひ参考文献をご覧下さい。
 
 みなさんが転移の新たな研究を生み出し、いつか子供達が学校で習ったことを100%社会で活かせられる教育が実現されるのを夢見ています。


参考文献:『授業を変える』米国学術推進会議編著 森敏昭・秋田喜代美監訳(北大路書房)2002


[池尻 良平]

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