2009.09.17

【山内祐平のゼミズバッ!】「学び」にまつわるエトセトラ。

山内先生に研究にまつわる疑問をなげかけるインタビュー【山内祐平のゼミズバッ!】
最終回は博士課程3年の森がお送りします。

私はもともと哲学科出身ということもあり、学びに関する研究に関わっていく上で、
根本的な部分について、もやもやしていたことを問いとしてぶつけてみました。
普通なかなか、こういう話は青臭くってできないですよね(笑)
この際、聞いちゃいました。

■なぜ、人は「学ぶ」のか?
それは、人が環境に適応していくためです。

ーそれは、適応して満足したら学ぶのは終わる、ということですか?

環境の方が変化するから、そういう日はこないでしょう。
私は、学習は行動のソフトウェア的な進化だと考えています。
生命は突然変異と自然選択を繰り返しながら進化してきましたが、我々はハードウェア的に進化する代わりに、学習することによって環境に適応し、文化として伝えるという営みを行っているのです。

■学習と教育の関係
ーそれでは、なぜ教育は存在し、また、大事だとされているのでしょうか。学習と教育の関係について、先生のお考えをお聞かせください。

学習と教育は違う概念ですね。
なぜ国家が教育を重視するかというと環境に適応できる人間が沢山いる方が繁栄するからだと考えています。
すなわち、学習者が学習するロジックと、国家が教育するロジックは、受益者が違う。そこは重要なポイントなのではないかと思います。

ーそこは混同されていると健全ではないような気がするんですが、どうなのでしょう。

チャーチルが「民主主義は最悪の政治形態である。これまで試みられてきた民主主義以外の全ての政治体制を除けば。」と言いましたけれども、それと同じでしょうね。
今の教育と学習の関係が健全だとは思いませんが、歴史上、それを越える関係が築かれて来なかったということです。
今後、その可能性がないという意味ではありません。現代は、国家統制型の教育よりも自律的な学習の方がどんどん強くなってきています。
情報通信技術が発達してきて、国家がコントロールできない形での情報の流通、それにともなう自然発生的な学習というのが人間の全生活をしめる割合が増えているんじゃないか・・
例えば、教科書で学んだ情報と、教科書以外、メディアで学んだ情報とか。その辺の比率は多分だいぶ変わってきているんじゃないか。
今後、この力関係が変わってくる可能性はあるな、と思っています。

■徒弟制に替わる、新しい学習モデルはあるのか?
ぼんやりとは見えているのですが、良い言葉がみつからないんですね。
徒弟制っていうのは、持続的なコミュニティをベースにしていますよね。
それを否定するわけではないんですが、なんていうか、コミュニティよりも薄くって、広くって、うつろいやすい人と人とのつながりの形が大事なのではないかと思っています。
ワークショップもそうで、twitterもそうで、コミュニティみたいにしっかりした基盤はないんだけれど、偶発的に人と人とがつながってそこで情報が交換されるような。
徒弟制は残ると思いますが、そういうゆるやかなネットワークの中での学習が、徒弟的な学習と同じくらい重要になる可能性があると思っています。
このようなつながりが注目されるようになったのは、情報通信技術が出てきて、そういうつながりが、可視化されたり蓄積されたりするようになったからだと思います。
ワークショップはITの前からあったし、そういう話は今までもあったはずなんだけれども、勢いを得るまで力が伸びなかった。ところが今は、ワークショップやったあとにつぶやいて、という風に、つながりを持続させながら関係を変容させることができます。
コミュニティという図式じゃない方が上手に説明できる気がするんだけど、それをどういう言葉であらわせばよいか、まだちょっと迷っている段階です。

■「学習」と「研究」って同じ?どこが違うの?
研究は、価値創発的活動である、それだけですね、違いは。
プロセスはほとんど同じだと思います。学習には当然、知識獲得したり、思考したりすることが必要ですが、そのプロセスは必ず研究にも入っていて、だからこそ学びと創造は表裏一体なのです。
ただ、研究は社会的活動なので、そこで価値創出を保証しなけれないけない。つまり、今までこの世になかった価値をそのプロセスによって生み出していかなくてはいけない。その義務が研究にはあるけれど、学習にはない。そこが違いなんだと思います。

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■最後に・・・
山内研では、個々の研究テーマに、ばらつきがあります。でも、だからこそ、学習をめぐる本質的な議論を積極的に行う文化があるように思います。
こんな青臭い議論にもおつきあいいただける、それが山内先生です。

興味がある人は、先生や、私たち院生とおしゃべりしに
福武ホールのLabに来てみてくださいね!

今週末(金・土・日)は
日本教育工学会@東京大学です。
学びと教育、そして研究に携わる1学生として、私も精一杯頑張ってきます。

それでは、また!

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