2009.09.10

【山内祐平のゼミズバッ!】大学の今とこれから

院生の研究テーマに関連して,山内先生に研究のトレンドをインタビューする【山内祐平のゼミズバッ!】第7回は修士1年の伏木田がお送りします。

私は,問いかけを通して理解が共有・深化されるプロセスに興味を持っています。大学の授業が問いかけを軸に「話し合う場」として機能することで,学生の学びたい気持ちが引き出され,新しい気づきや充足感へとつながっていくのではないかと考えています。
近年,大学は大きな転換期に突入していると指摘されており,それに伴って教員の在り方も変化しつつあるように感じます。教員の役割,学びとその支援といった大きな視点からお話を伺いました。


■大学教員に求められる役割には,どのようなものがあるのでしょうか?

大学の教員の仕事は大きく3つに分けられると思います。そして,この3つの専門性を同時に満たすことが,これからの大学教員に求められている役割だと考えています。 
  (1) 研究:新しい知見,アイディアを生み出す
  (2) 教育:研究で培った専門性をもとに次世代を担う人々を育てる
  (3) 社会との関係性づくり:社会の中で一定の役割を果たすことが期待されている
社会から見たとき,大学の教育機能が前面に押し出されがちです。そこへの圧力も可視化されやすい。けれども,教育だけに精を出して研究をしなくていいのかというと,そう単純な話ではないでしょう。個人的な意見ですが,大学の教員が教育において専門性を発揮しようとすると,研究をきちんとすることが大切になると考えています。大学に期待されているのは,「何かを生み出すことを教える」ということです。課題解決や課題発見の意義や方法を学生に伝えるためには,教員自身が日頃から実践していないとなかなか難しいでしょう。つまり,教育の専門性をある程度の水準以上に高めるためには,研究という行為を通して,何か問題を見つけて真摯に向き合うことが背景として重要なのです。
「教える・学ぶ」は複雑で大きい事象なので,教育方法だけに還元するのはいかがなものかと感じています。もっと対極的でマクロな見方をした方がいいのではないかというのが私の考えです。断片化された知識以上のことを学生が学ぶためには,「何か新しいものを生み出そう」という意欲を教員が持ち続けることが大切だと考えています。


■社会との関係づくりをどのように捉えていらっしゃるのでしょうか?

研究が何に役立っているのか,その意義が社会になかなか伝わっていない現状があるからこそ,先に指摘した専門性の(3) が大切だと考えています。学問領域は多種多様なので,すべての領域で短期的に役立つことは必要とされていません。今は何に役立つのかさっぱりわからないけれども,50年後,100年後の人類の知的財産として重要だと主張できればよい分野もあるでしょう。社会が成熟するにつれて,大学を維持する社会との関わりをきちんと考える必要性が出てくると思います。
大学院を修了した人材がかならずしも大学の教員になるわけではありません。けれども,自分が持っている専門的知識を,それを媒介していない人に伝えることがまったく必要のない職場というのはないでしょう。だからといって,伝えることに必要な技術を,教育方法という形で特別に教育するのがよいというわけではありません。教員は本来,問題解決が出来る人が多いですし,世間で言われるよりも教育に興味・関心を持っているからです。
大切なのは,対話の中でお互いの知識を共有することであり,そういった経験は日頃から積んでおいた方がよい。また,大学はその機会を保障するのが望ましく,CSCD(大阪大学コミュニケーションデザイン・センター http://www.cscd.osaka-u.ac.jp/)でのワークショップの実践もそのひとつです。「やりたいこと・やってきたことを説明する力」をすべての学生が身につけ,そういった力をベースに社会と関係をつなぐことを出来た方がよいと考えています。


■教員の学びをどう支援していくことが求められているのでしょうか?

何か問いを作り,それに対して真摯に向き合うことはある種の文化であり,知識やスキルと同じように伝えていくべきものです。「物語る」というのは非常に重要な行為で,例えば,自分が学んでいることの意味や,研究することの面白さ,なぜそのテーマを取り扱っていているのかといったことを教員が学生に伝えるのはとても大切なことです。
研究のきっかけやポイント,失敗などを,研究内容それ自体と合わせて語ることで,大学の教育活動は完結すると考えています。本来はその両者が有機的に組み合わされることが理想ですが,それはなかなか難しい。実際,今日の大学では,先輩や教員との語りをはじめとする「研究室の文化」の中で,そういったつながりが成り立っていると言えるでしょう。つまり,フォーマルな授業よりも,研究室で行われているインフォーマルな学習の方が,いろいろな点で重要な役割を果たしているかもしれないということです。
研究室の運営や授業の組み立ては,大学に就職する前に細々と説明されたからといってすべてを理解できるものではありません。新しく来た教員が,自分なりの授業のやり方を開発していくのを支援するためには,出会いの場を設けて他の教員の体験談を聞けるようにするのも良い方法でしょう。最近よく言われるFD(Faculty Development)とは,教員の可能性が開発されることを指していると考えています。

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教育をするための背景として研究を捉え,研究から得られた知見だけでなく,自分と研究との結び付きを物語ることで大学教育が完結するというダイナミックな考え方に心躍るひとときでした。知見・技・語り,この3つの要素が詰まった研究室(ゼミ)の文化を探るのも,学生および教員の学びを考える上で面白そうだと感じました。

[伏木田稚子]

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