2009.08.08

【山内祐平のゼミズバッ!】教育学は未来を対象にできるか?


院生の研究テーマに関連して、山内先生に研究のトレンドをインタビューする【山内祐平のゼミズバッ!】第2回は修士2年の池尻がお送りします。

僕は現在、高校生を対象に、歴史を現代に活かすためのカードゲーム教材を作っています。
内容としては、歴史上の社会的な問題の因果関係を、現在から未来の因果関係と重ね合わせることで、現在を歴史のような多面的で高い視点から捉えて、より良い未来への道を予測してもらおうというものです。

研究では「歴史」をテーマに教材を作っていますが、僕は「今」や「未来」に活きる力の育成に非常に興味があって、最終的にはある時代の子供達が大人になった時点で役に立つ能力を育成できる教育形態を作り出したいと思っています。

そこで、今回は山内先生に「未来」を射程に入れた教育研究の可能性についてお聞きしました。

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池尻
「未来で役に立つ力を育成するという教育研究はそもそも可能なのでしょうか?」

山内先生
「一番難しいのは評価です。例えば、高校生を相手にした研究として、○年先の社会に対応した能力を身につけさせる教育プログラムを考案して実施しましたといっても、本当にそれがちゃんと役に立ったかどうかは○年先にならないと検証できませんよね。だから、長期の未来を対象にするのは難しいと思います。」

池尻
「シミュレータを使って○年先の社会を予測して検証するというのも無理でしょうか?」

山内先生
「政治学の分野ではよくやられていますが、こういう人が出会ったら原理的に何が起きるかといった、モデルのシミュレーションはすでにできています。ただ、現実の社会のシミュレーションはあまりにも複雑すぎて、今のところ社会科学の範囲には入っていません。だから、パラメータを入力して現在の社会をシミュレータにかけても、何かしら結果は出ますが、おそらく未来の社会とは異なるでしょう。そうすると検証にも使えません。」

池尻
「では、どのくらい先なら可能なのでしょうか?」

山内先生
「5年先くらいなら可能だと思います。というのも、5年前から今までの間に、社会で何か波があるというのがわかれば、これから5年先の社会もその波に沿って大体どうなるかの予測がつくからです。非連続なものを予測するのは難しいですが、このように連続したものなら、妥当性も上がります。それでも5年間継続して研究できるチームが必要なのでハードルは高いと思いますが、現在の社会で役に立つ教育をしても、5年経つと一部はもう重視されなくなるというのはあると思います。だから今後は、現在から10年先くらいのことを見据えて、それに対応する能力を身に付けさせるのは非常に重要になると思いますし、必ず誰かがやらなければいけなくなると思います。」

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うーん、なるほど。確かに、10年先を予想してぴったり役に立つ教育をされた人と、10年先ではなくその時役に立つ教育しかされなかった人がいるとすれば、必ず前者の方が将来活躍しますよね。

山内先生も言われた通り、5年先なら現在の傾向を分析することで、ある程度将来役に立つ能力をぴったり合わせられる夢の教育ができるかもしれません。今後、教育の研究で現在から5年先の未来にかけての傾向を予測する分析手法が色々と試され、その精度が高まっていけばいいなと思います。

どの程度貢献できるかはわかりませんが、僕も歴史の因果関係を利用するというアプローチから、未来を読む手法に一役買うことができるよう、頑張っていきたいと思います!

[池尻 良平]

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