2009.07.17

【研究室の書棚から】「認知心理学者 新しい学びを語る」


こんにちは。
山内研の本棚にある本を紹介する新シリーズ【研究室の書棚から】の第6回は,修士1年の伏木田が担当いたします。

今回ご紹介したいのは,
森敏昭(編),21世紀の認知心理学を創る会(著),2002
『認知心理学者 新しい学びを語る』
北大路書房
です。

堅苦しくなく,それでいていろいろなエッセンスがぎっしり詰まったこの1冊!
頭をほぐしたいなと思ったら,これを手にとります。なぜなら・・・

1) 研究が教育現場にもたらす意義を,総勢20名の研究者たちが熟考している
2) 人間そのものの理解に関する知見をベースに,教育改善を模索している
3) 実践に近づいた研究,研究に近づいた実践という2軸で話が展開している

このまとめ方じゃわからないという方,ぜひ1度読んでみてください。
読む前に少し概要を知りたいという方,ちょっとだけ中身をのぞいてみましょうか。


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■この本の構成

大きく分けて5つの視点から,教育実践に役立つ心理学の研究・理論を説明しています。その背後に隠されているであろう問いは・・・
  ・21世紀に求められる学びとはどのようなものか?
  ・知の発達は学校教育でどのように支援されているのか?
  ・教育が自分づくりにどう関わっていくのか?
  ・つながり合いながら外へと開かれる学びをどう作っていくのか?
  ・学びは情報化社会で変わるのか?


■載っている主な内容

20世紀の学習観の変容から,教室研究の魅力,情動からの学習の捉え直しに至るまで,幅広い視野をもって学びを捉え直しています。例えば,私が気に入っているのは・・・
  ・学習意欲の仕組み(鹿毛)
  ・教室談話にみる子どもの参加スタイル(秋田)
  ・情動知性とメタ情動(上淵)
  ・インターネット情報検索とメタ認知(吉岡)
  ・教育工学の研究(向後)
また,研究を進めていく上で必ず出会う数々の専門用語,知っておくべき理論や定義などもさらっと登場するので,教育心理学を俯瞰する上でも役に立つのではないでしょうか。


■思い入れ

わたしがこの本を知ったのは院試の前,実際に読み始めたのは今年の5月,そしてその後も今も,手元に置いてはちらりちらりと読みたくなる1冊です。
まず,内容がとてもコンパクト。それなのに,必要な要素,他に広げていく可能性がふんだんに詰まっているのです。そして,展開のテンポ感のよさ。20人の研究者たちの振り返りが,拡散しつつも「学び」という1点に集約しうるところが魅力です。
教育を研究対象として深く掘っていくにつれ,確かにひとつひとつの知識は深まるかもしれません。けれども,それぞれの知識を具体的にどのような場面で使うのがよいのか,どのように組み合わせれば新しい応用可能性を見込めるのか,発展的に考えることはとても難しいと感じています。
基礎的なテーマに対し,あらゆる角度から切り込んだこの認知心理学者たちの試みが,迷える道の杖となるのではないか。そう感じる私自身,そしてこれから研究者の道に入る受験生のみなさまに,この本をお勧めしたいと思います。

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