2009.04.16

【今年の研究計画】大学の多人数講義におけるデジタル・バックチャネルの利用を学習に結びつける方法の提案

学生の研究計画をご紹介する【今年の研究計画】シリーズ、
第2回はM2大城がお送りします。

今回は、自分のやりたいことの大きなイメージをお伝えするとともに、
直面している課題事項の整理をしてみたいと思います。

○やりたいことを一言でいうと...

大学の多人数講義において、コミュニケーションの活性化を目的としたツールの利用を、これまで授業中の個人の学習方略として広く用いられてきたノートテイキングとドッキングさせることで、授業内容の理解を深めることに役立つようにすることを目的としています。


○デジタル・バックチャネルとその問題点

チャットやレスポンスアナライザ(授業中に学生の質問や意見を教師の手元に一挙に収集・集計するツール)といったツールは、デジタル・バックチャネルと総称できます。
バックチャネルとは、同じ部屋にいる大勢の人が一つのトピックに集中している場面において、フロントチャネル(講義やプレゼンなど)を補完するチャネルのことです。
私語などもバックチャネルに分類されることになりますが、特にICTを使う場合、デジタル・バックチャネルと呼ぶことができます。

デジタル・バックチャネルを授業中に用いる際の問題点として、3つの問題点が挙げられます。

1つ目は、使う人への負荷が高いことです。
つまり、先生の話を聞きながら、それについて同時に他の人とパソコンの画面上でコミュニケーションをとるという行為は、なかなか難しいということです。

2つ目は、そこで行われるコミュニケーションの内容が、しばしば講義とは無関係なものに飛びやすいことです。
結局、授業内容とは関係ない私語がデジタルで行われてしまっているということです。

3つ目は、ノートテイキングと両立できないことです。
1つ目の「負荷が高い」という問題とも関連しますが、実はノートテイキング自体も、人の話を聞きながら、情報の取捨選択を行い、自分なりの言葉でメモを取るという点で負荷が高く、誰もが満足のいくノートを取れているわけではありません。ましてや、コミュニケーションのツールの利用と同時に行うのはなかなかに困難であると言えます。

以上の3つから浮かび上がることは、授業中のデジタル・バックチャネルの利用は、授業の臨場感や、コミュニケーションを促進できていても、その内容が必ずしも授業内容の理解と結びついていないという問題です。


○修士論文で提案したいこと

そこで、問題を解決する方法として考えているのが、講義の裏でコミュニケーションをとる手段であるデジタル・バックチャネルの利用と、これまで個人でとっていたノートテイキングの結合です。

ブラウザで動く既存の文書やスライドの共同作成ツール(Google ドキュメントZoho WriterDocVerse等)のいずれかを用いて、授業内容の理解に結びつくような新しい利用方法の提案を行いたいと思っています。

具体的には、うまいノートテイカー1名のノートに対し、他の大勢の受講者がアノテーションの形でコメント投稿できるようにし、出来上がったノートを各自が復習用の素材として持ち帰ることができるようにする、という仕組みを考えています。


○現時点の課題

しかし、コミュニケーションを目的として作られたツールと、個人の理解を深めるためのノートテイキングという、一見すると別々のものを一緒にしようとしているため、食い違いやロジックの飛躍が起きています。よって、この案については、下記のような、かなり根本的なところでの検討課題があります。

課題1:その方法を使うことに際して、何に重きを置いているの?
...個人の認知の支援?臨場感を持った場の支援?

課題2:目指す理解のタイミングはいつのもの?
...その場での理解?復習する時の理解?

課題3:そもそも授業内容の「理解」って何?
...短期記憶?長期記憶?応用力?

今後は、今まで調べたデジタル・バックチャネルの開発研究や、ノートテイキングの効果に関する研究と、既存の文書共同作成ツールの整理を行いつつ、研究計画の練り直しを行いたいと思います。

[大城 明緒]

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