2009.04.11

【今年の研究計画】歴史情報を現在の文脈に置き換えて批判的に利用させるカード教材のデザイン

みなさま、こんにちは。修士2年の池尻良平と申します。

新年度ということで、山内研にもフレッシュな1年生がたくさん入ってきました。今年も山内研のメンバーが毎週ブログを上げていきますので、どうぞよろしくお願いします。

さて、第一回目のタイトルは【今年の研究計画】です。毎回、研究生の持っている目標と研究計画を書く今回のお題、トップバッターは歴史学習を専攻している池尻がお送りします。

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○歴史学習の歴史ってどうなっているの?

 暗記だけをさせる歴史学習には問題点がたくさんあると言われてきました。例えば「生徒がやる気にならない」「一面的な歴史観を教えることになる」「多様な視点が欠けている」などです。
 そこで、特に1990年以降、暗記の効率を上げる歴史学習から、「多面的に歴史を見る力」「史料を使って批判的に歴史を見る力」「歴史上の因果関係の構造を分析する力」などの知識以上の一般的な能力を伸ばす歴史学習を目指す研究が増えてきました。

○歴史って過去ベクトルの学問?いいえ、現在ベクトルの学問です。

 ところが、歴史学の大哲学者E.H.Carrは、歴史とは現代の問題意識と合わせて語ることに意義があるのだといっています。同じように、歴史上の大きな社会的変化を現代に適応することこそが歴史を学ぶ最大の意義だという研究者もここ5年で随分と増えてきています。
 しかし、現状の歴史学習は「過去の知識」から「過去のことを考える力」とシフトはしてきましたが、「過去の大きな因果関係を現在に引きよせて考える力」を育成するのに効的な学習方法は確立されていないのが現状です。

○じゃあ、僕は何をしようか?

 そもそも僕は「歴史を役に立つ学問にする!」を目標に1年生から研究してきたので、じゃあ、歴史を現在に活かす学習方法を考えようということにしました。
 具体的には、歴史でしか勉強できない大きな社会的な変化や因果関係(例えば、産業革命期の労働問題)を同じようなテーマの現在の問題(例えば、派遣問題)に置き換えて考えさせ、現在の問題をマクロな視点から解決する方法を身に付けさせることを目的にしています。

○それで、どうやって研究するの?

 口頭でこれをやれ、と言ってもなかなか難しく、なかなか歴史と現在を結びつけるには至らない歴史学習が多いので、僕の研究では教材をデザインしてこの活動を促進させたいと思っています。特に、過去と現在のどことどこが構造的に似ているのかが一目でわかり、複雑な情報をパッケージ化して学習できるようなカードを使った教材を考えています。

○評価はどうするの?
 カード教材を使うことで子ども達が「お、昔のこの原因と今のこの原因って実は似ているね」といった過去と現在をつなげて考えようとする発言をプロトコル分析で出せたらなと思っています。また、「ってことは、今は大きな流れで見るとこの原因が派遣問題の根本にあるんだな」といったマクロな視点で現在を分析する発言や「そうすると、今の問題を解決するにはこの大きな原因を解消しないといけないんだ」という発言が出てきてくれることを目指そうと思っています。

○対象は?

 僕はずっと子どもの頃から学校の文化が好きじゃありませんでした。受験受験、試験試験、偏差値偏差値。しかも頑張って勉強しても社会に出て行くにつれてあんまり役に立たなくなる。じゃあ、高校生は何であんなに苦しんで勉強しているんだと常々思ってきました。特に歴史科はその傾向が強いものだと思います。だからこそ、歴史で身につく力は現在のあなたの生活、引いては未来を変える力につながるんだよということを早く高校生に伝えたいと思っています。発達段階的にも可能なはずなので、ぜひ全国の高校の歴史授業を一新できるように頑張りたいと思います。

○今後の課題は?

 まず何よりもカード教材に魅力がないと使ってもらえないので、高校生が知的にもゲーム的にもワクワクして、遊びながら学べる教材を考えていきたいと思います。
 今年度は実際に高校世界史の授業を長期的に見学させてもらい、高校生がどういうものに反応するのかをじっくりと勉強する予定です。
 また、過去を現在に照らし合わせるという活動の結果がどうなるか自体、未知のことが多いので、実際にやってもらいながら、僕の中でどういう能力を上げさせたいのかを固めることも課題として取り組みたいと思っています。

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 随分と長くなってしまいましたが、ゆくゆくはいつか子ども達が学んだことの全てが社会で役に立つような、ねじれが生じない自己調整的な教育システムを構築したいと思っています。修士ではその第一歩として、歴史を現在の問題関心に合わせて役に立たせられるこの研究を良い形でまとめたいなと思っていますので、温かく見守っていただければ幸いです。

[池尻 良平]

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