2009.03.06
【私とylab、この一年】第4回は、M1の池尻良平がお送りします。今回はこの一年で痛感した「参加」のパワーについて書きたいと思います。
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大学院生になって僕が最初に読んだ本は、山内研の本棚にあった『状況に埋め込まれた学習 正統的周辺参加』(ジーン・レイブ、エティエンヌ・ウェンガー著)でした。この内容をびっくりするほど要約すると、学習というのはある共同体に参加することによって起こるものであるというものです。もう少し詳しく話すと、共同体の中心にいる人から与えられた正統的な仕事を重要度の低いもの(周辺)からこなしていく過程でこそ学習が発生し、それを重ねていくうちに、最終的には共同体の中心に行くようになるというものです。
僕はこの本を読んだとき、最初は正直あまりピンと来ませんでした。それは、僕が今まで詰め込み教育を受けてきたからかもしれません。当時は「学習」というと、やっぱり本を読み、考え、最終的にはテストによって評価されるべきものだと思っていました。また、文学部ではこれといった特別な教育をされなかったため、研究というのは一人で本と向き合ってするものだという意識を強く持っていました。
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山内先生は、あまり「これを読みなさい」とか「この研究はダメだ」ということを言われない方なので、山内研に来てからも研究は一人でやっていくものだという意識が根強く残っていました。ところが文学部の頃と違い、山内研では「仕事」を任されることが多いなあと最初は思っていました。
例えば、僕はこの一年でBeatingというベネッセのメールマガジンの執筆や、駒場にあるKALSという視聴覚機材が充実した教室のTAをやったり、マイクロソフトと共同で研究されている教材のお手伝いをしたり、UTalkというカフェ形式の対話のお手伝いをしたり、ワークショップのイベントをお手伝いする機会がありました。
こういう活動自体は歴史教育を研究している僕にはほとんど関係がないことなのですが、そこで出会った人たちから学んでいることが多いなあと今になって気づきます。例えば、僕はてんで機械音痴なのですが、ICT教材に触れる仕事や、ビデオを回す仕事に携わることで、システムはどう動くのかや機械の扱い方を知ることができました。今では自分の研究を実行する上で、システムの導入もある程度考えられるようになったほどです。
また、メールマガジンの取材に行った現場の先生には今でもお世話になっていますし、ワークショップ関連のイベントに出ているうちに、テスト評価とはまた別の学習の形があることも知れました。
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繰り返しになりますが、山内先生は自由に研究をさせてくれる先生なのですが、不思議と文学部の頃のように一人ぼっちで研究をしているという感覚にはなりませんでした。それは週1回のゼミもそうですが、上で書いたような仕事に参加する過程で出会えた色々な人のおかげだと思います。実際この1年で、システムに詳しい人、現場の先生、歴史学の先生、その他自分の専門とは違う色々な人と話し合える環境が自然と出来上がり、その中で自分一人では思いつかない見方や、研究のヒントを見つけることもできました。
参加する過程で学ぶことに加えて、参加することで知り合えた人から学ぶこと。冬辺りからはその二つを特に実感できるようになりました。
こういった環境の中で研究をしているせいか、今の僕の研究は色々な人の血が入っているように思います。それは山内研の周りだけでも例えば、ゼミで読んだ「批判的思考力」、「反省的実践家」、坂本さんの「存在しないものを見る目」、牧村さんの「熟達家の発想方法」、佐藤さんの「システムを使う必然性」、りんさんの「現場に溶け込む教材のあり方」、森さんの「現場の人とつながりを持つことによって出る研究の深み」など、自分の研究に示唆を与えてくれたものがたくさんあります。
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この学習の例は、正確には正統的周辺参加ではないかもしれません。そもそも、分野毎に排他的で、知の継承に加えて新しい知見を生み出さないといけない「研究」において、正統的周辺参加の中心自体ないのかもしれませんが、それでも僕はこの一年、山内研究室に参加することでしか得られないと確信できる学習が確かにありました。
山内先生を始め、色々と仕事を任せていただいた方々、その中で知り合い相談に乗っていただいた方々、ゼミの中で研究のヒントを背中越しに見せてくれた先輩方に感謝したくてもしきれない一年になりました。
M2の方々が来年度からいなくなってしまって寂しい反面、教わったことを無駄にしないよう、自分の研究に日々邁進したいと思います。それと同時に高校や歴史教育の学会など、新しいコミュニティにもどんどん参加して、もっと学習していかねば!と思っています。
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入学当初は歴史の因果関係をコンセプトマップで教えるという研究だったものが、はてさてこの一年でどう変化したのか?その内容については次回に続くということで終わりにしたいと思います。それではみなさま、来年度もよろしくお願いします。
[池尻 良平]