2008.12.06
今回で【みんなの授業】シリーズは終了。
トリをつとめます博士課程2年の森玲奈です。
私がが取り上げるのは
文化人間情報学基礎3(通称「基礎3」)という科目です。
これは水越伸先生と山内祐平先生のコラボレーションによる授業です。
この二人は交互に出てくるということではなく、
二人が「いつも」いらっしゃいます。
この科目は、開講されて今年で5年目。
冬学期の科目ですので、まさに今開講されています。
修士1年の履修者が多く、私も3年前に履修しました。
これは、学際情報学府の学生が履修する科目の中で、
最もハードな科目の1つであることは間違いないです。
この科目が楽勝!と言う人は、学環のもぐり、だと言っても過言ではないと思います。。。
■カリキュラムデザイン
簡単に言うと、過去の<偉人>(履修者人数によって異なるが4〜6名)に関し、担当を決めてグループをつくり、調べ、発表し、それをもとに議論をするという授業です。
(※なお、今年度より、形式は変わらないですが、調べる対象は過去の<ムーブメント・動き・グループ>に変更されています。)
■基礎3の難しさ(1):扱う対象の難しさ
基礎3の難しさは(1)調べる(2)発表する(3)議論する、という対象となる偉人のバックグラウンドが幅広いということにあります。
過去のラインナップをご紹介しましょう。
2004年度(1期):
ピアジェ/清水幾太郎/ヴィゴツキー/ミード/デューイ/マクルーハン
2005年度(2期):
デューイ/フレイレ/リースマン/鶴見俊輔/フーコー
2006年度(3期):
バフチン/デューイ/イリイチ/レイモンド・ウィリアムズ/ハロルド・イニス
2007年度(4期):
ベイトソン/モンテッソーリ/リップマン/ロラン・バルト/柳田国男
2008年度(5期):
アップル/バウハウス/新教育運動/思想の科学
■基礎3の難しさ(2):他者の視点を獲得し内在化することの難しさ
グループ持ち回りなので、それぞれ発表担当は2週分(2回)です。
しかしながら、自分の担当でない時は「ただ聴くだけ」でいいわけでは全くありません。
他のグループが発表している回には、発表後のディスカッションタイムでの発言が必要になります。
このディスカッションタイムでは、それぞれの学生は自分の担当した<偉人>の視点に立ち、他グループが担当している<偉人>に対し、質疑をしたり、議論をふっかけたり、それに応戦したりしなければなりません。
すなわち、ちょっとした知的ロールプレイゲームのような様相も呈しているのです。
他者の視点を我がものとし、他者の声を内在化させて議論をするというのは大変ハードな活動です。ですから、同じグループのメンバーとは毎回作戦会議をし、この闘いを毎週やるので、終わるころには「同志」さながらです。
■履修者の受けとめ方
2期〜4期の学生の皆さんに、今回のブログを書くにあたり、数名感想をお寄せいただきました。
・授業名の通り「研究者やその理論」を知る上での"基礎"を学べた。当時は研究に直接関係ない人ばかりでうんざりしていたが、振り返ってみると理論を学ぶ上で、研究者の時代的背景から育ち、さらには影響を受けた研究者との関係性まで見ていくとその研究の本質が見えてくるのだということを体感でき、その後の自身の研究の進め方に影響していたと思う。
・基礎3は二つの学際性っていうのが面白さのポイントかなと思う。1つ目は、対象の学際性。扱う巨人たちは教育だけではないので、違うジャンルの人との関連を考える必要があること。2つ目は、発表する学生の学際性。同じグループの人たちのバックグラウンドが異なるので、その違いが発表資料を作るときにディスカッションになったりする。この2つの学際性があるからこそ、基礎3は盛り上がるのかなと思う。
・分野の違う人物を深く,そしてお互いを絡ませながら調べて発表する機会は,ものごとの共通点や相違点など発見する力を養うのによかったと思う。また,ちょうど1900年前後(100年前)の時代に関わった人たちだったので,100年前の時代を思い描くことを通して,逆に100年後を見通してみるということにも意識が向いて興味深かった。言説や思想の形式というのが時代と結びついているものなんだということは、基礎3を通しての主題のような気もしている。その中でこの時代を生きる自分たちをどう位置づけるかということを問われているのかなと思う。
・(担当した偉人Xについては)教育の分野に直接関係する人物ではなかったのではじめはまったく知らなかったが、自分の関心のあるキーワードと関連づけて学んでいくうち、自分に興味のある分野とのつながりが見えてきた。そして、この人が魅了されていたのはこんな感覚だったのかなとその人生に引き込まれていったのが楽しかった。同じ班のメンバーとも、ああでもないこうでもないと言い争いをしつつも、有意義な議論をすることができた。メンバーそれぞれがXを好きになってしまい、発表の形にまとめるのはなかなか大変だったが、普段だったら交流することのない学環のメンバーとの親睦が深まった授業の1つだと思う。
・そもそも授業のスタイル自体が新鮮だった。毎週大変だったが、まさにHardFunという感じだと思う。新しいことを知るという点でも一度に5人というのはお得な気がするが、それ以上に、分野や時代や国が異なる研究者を関連づけて考えるというのが、やはりこの授業で一番魅力的な点だと思うし、これが大変な点でもあるのだと思う。学環という新しい環境に来て、二足のわらじを履くということをすこしずつ実感できるようになったのはこの授業かもしれないという気もする。
■「基礎3」とは何なのか・・・
履修者に「感想を一言で」と言っても、みんな二言、三言と書きたくなってしまう・・
それぞれの「基礎3」があり、想いがあることがうかがえます。
では、そんな基礎3、その本質とは一体何なのでしょうか。
その手がかりを考えるべく、今回基礎3の2期生 森玲奈は、基礎3の1期生である北村智さん(橋元研OB、現在は情報学環・特任助教)と、この授業の本質とは何なのだろうかという話をしてみました。
ーこの授業は何を学ぶ授業だと思いましたか?
基礎3というくらいなので、やはり「キソ」でしょうね。
ー「キソ」とは何の「キソ」なのでしょう。
文化人間情報学コースにはいろんな先生がいますよね。現在の学問は領域によって分断され、細分化されてしまっていますが、さかのぼっていくと、文系の学問というのは「神学」「哲学」に行き着くわけですよね。それは、昔は一緒に行われていたのです。例えば、僕たちの担当したのはG.H.ミードでしたが、同じ期で扱ったデューイとはとても仲の良いお友達でした。デューイは山内先生、G.H.ミードは水越先生がセレクトされた偉人だったわけですが、この二人は同じ大学で、プラグマティズムという価値観のもと、交流していた。例えばそういうようなこと。そういうことを調べて学ぶことで、学際情報学府にいるものとして、「学際」の「キソ」を学ぶ科目だったのではないでしょうか。
ー学際の困難さ難しさ、可能性も含めてバーチャルに、全て引き受けてみるというような授業だったのでしょうか・・・魑魅魍魎うずまく学問の世界に身を置いてみるということで。
水越先生はよく、「野蛮」という言葉を好んで使われますね・・・
ー「野蛮」、「野蛮」に学ぶ、ですか。でも私は2期だったので、先輩の資料などをひたすらかき集めて授業に望んだので少し心構えができていたのですが、1期は何も下地がなかったわけですよね?
全然知らない人を調べているので、どこを読んでまとめていいのか、ポイントが分からず、発表時に教員に指摘を受けることもしばしばありました。それにiii-onlineにもなっていたので・・・文献講読的授業をe-learningにしてしまうという冒険的授業でしたね。
ーこれがきっかけで、北村さんは山内先生と出会うわけですよね?
そうですね。共同研究をするようになるわけです。不思議なものです。
ーまさに学際的出会いがリアルに生まれたわけですよね。お話ありがとうございました。
■最後に一言
学環に来たら、飛び込んでみる価値はある授業だと思います。
覚悟はいりますが。
【担当:森玲奈】