2008.10.17

【みんなの授業】「協調的知識統合論」(教育学研究科)

シリーズ【突撃!隣の研究者】も一回りし、また新たなシリーズが始まります。
新しいシリーズは、題して【みんなの授業】。
学環・学際情報学府や周辺の学部・研究科にはどんな授業があるのか。山内研の学生は、いったいどんな授業を受けているのか。山内研のみんなが今受講している授業や、過去に受講したお気に入りの授業を紹介してもらいます。
山内研の学生は、どんな分野に興味を持っているのか、どんな知識を最低限持っていないといけないと思っているのか、少しでもその鱗片がご紹介できればと思います。

---
というわけで、M2坂本がご紹介する授業は、昨年の夏に行われた、教育学研究科の集中講義「協調的知識統合論」です。
講義自体は「教育創発学特殊研究」という、教育学研究科の秋田喜代美先生の講義なのですが、講師として中京大学の三宅なほみ先生が4日間にわたりレクチャーを進めてくださいました。

この授業は、駒場に新設された教室、KALSで行われました。
昨年、山内先生もエッセイにてその様子を紹介しています。

「協調的--」というその講義名の通り、講義内容はすべて、学生がいくつかのグループを組んだ状態で進んでいきました。
具体的には、グループで作業がしやすいまがたまテーブルや、4面を囲うプロジェクタ・スクリーン、一人一台のタブレットPCといった、すてきな学習環境が整ったKALSの特長を活かして、ジグソーメソッドという学習方法や、ReCoNoteという協調学習用ソフトウェアをふんだんに用いて学んでいきました。

講義内容としては、「知識統合」「建設的相互作用論」「熟達化」などといった学習科学でHOTな分野を扱いました。
その領域の有名な論文をA4一枚程度にまとめた資料が用意され、ジグソー形式でグループを組み替えながら、ああでもないこうでもないと議論を進めます。

この授業のおもしろいところは、どれも今現在研究が進んでいて、分からないことだらけの分野であるということです。
ReCoNoteに、自分たちのグループが考えた様々な概念の関係をコンセプトマップとしてまとめていくのですが、こういった媒介物がさらに議論を刺激し、「それはこっちだろう」「いやこことつながってるでしょ」「え、なんでそうなるの?」などといった会話が教室中の至る所から聞こえてきます。

僕の個人的な感想としては、「分かれば分かるほど分からないことが多くなっていった」授業でした。
たとえば熟達化に関しては、「"adaptive expertise"とは何か?"routine expertise"とはどう違うのか?」といった議論に始まり、「"adaptive"とはすなわち転移のことなのか?」、「そもそも転移って何なの?」、「それは学習とどう違うの?」、「熟達化は学習とはどう違うの?」などと、それぞれのグループの中で議論が白熱していきます。
いろんなところですでに話を聞いて、分かった気になっていたことが、考えれば考えるほどどんどんわからなくなり、謎は深まっていきました。

非常に頭を使い、"脳みそに汗をかいた"4日間でした。
毎回、授業が終わる時間になると学生は皆ぐったりしていました。
1日中続いた、分からないことを分かろうとする積極的な議論は、アタマの疲労感とともに、「分からないことを考えるのっておもしろい」という快感のようなものを与えてくれました。

そして、最後の授業が終わっても、三宅先生はご自身が持っている考えはおっしゃいませんでした。
中には「すっきりしないから先生の"答え"を教えてほしい」という声もあがりましたが、それはされませんでした。
きっとそれは意味のないことなんだと思います。
今僕らが進めている研究も、どこかに答えが用意されているものではないのですから。

[坂本篤郎]

PAGE TOP