2008.08.07
山内研に至るまでの軌跡【山内研と私】。第7回は博士課程の佐藤が担当します。
このお題を頂いた時からずっと過去を振り返っているのですが、人生長くなると色々な要素が絡み合っていて解き解すのが大変です(林さんも仰ってましたね)。切り口によっていくつもの物語が出来上がってしまいます・・・。このページの読者の多く-受験生-に参考になる事を!の模索もままならず・・・、(王道から外れまくりの人生なので)ご容赦頂けたらと思います。
私は山内研に入る前、武蔵野美術大学のデザイン情報学科に在籍し、子どもを対象にしたインタフェースデザインを行うゼミに所属していました。ちょうど自身も”魔の2歳児”の子育ての真っ只中だったのですが、うんざりするような子どものプリミティブな行為に対して”観察・分析してデザインに活かす”という視点をもらい、以後、子どもの面白行為フェチになりました。そして、デザインを行ったインタラクションにより”子どもの中に何が起こるのか!?”に興味がシフトし、さらに、科学技術の進歩により幼児の創造性や想像力を育むようなメディア環境のあり方には未知の可能性があるはずなのに、現状の使われ方は商用目的のような知育に偏ったものしか見当たらない、”遊びが学び”である幼児期に相応しいメディアの可能性を模索したい!と思うようになりました。間近でメディアアートを見る機会が多くあったからかもしれません。
そんな中「そもそも子どもがコンピュータを使う必要があるのだろうか?」という疑問にも苦しんでいたのですが、それをすっきりさせてくれたのが山内先生でした。2002年NewEducationExpoでの”情報メディアとリテラシー、その学習をデザインする”というセミナーで、会場からの「このリテラシーは一体誰がいつどの教科で身につけるものなのですか?」の質問に「読み書きのように、これからの子どもが身につけるべきリテラシーです(←多分そんなニュアンスのこと)!!」と言い切っていた姿に救われた気がしました。翌年「デジタル社会のリテラシー」を出版され、すがるようにして読んだ記憶があります。その後、先生の追っかけ(!?)のごとく講演やセミナー等を聞きに出かけ、その都度視野を広げてもらい、感銘を受けていました。そして、私が抱いていた興味や疑問を山内研究室で突き詰めることが出来たらいいなぁ!と思うようになりました。
とはいえ武蔵美卒業後は、保護者との連携を重視した息子の幼稚園生活に翻弄され、専業主婦として日々に忙殺されていました。そんな状況でしたが(今でもあのシチュエーションをはっきり覚えているのですが)、突然転機が訪れます。たまたま国分寺の丸井の地下の食品街で息子と買い物をしていた時、武蔵美時代の同僚にバッタリ会い、学科助手の八重樫さんが山内研に進学するという話を聞いたのです。そこで、すかさず武蔵美を訪問し、根掘り葉掘り伺いました。面倒見の良い八重樫さんは、進学する上での読んでおくべき書籍や研究計画の書き方を惜しげもなく披露してくれただけでなく、A3の紙に鉛筆でひたすら解答を書く(学環の試験は白紙A3を文字で埋めないといけないのです!)という模擬テストまでやってくれました。そして、再び進学の夢を抱くようになり、何とか実現することが出来ました。
実際に研究室に入ると、漠然とした思いだけが先行していて学問の素養がない点を痛感しましたが、そこはさすが学習環境デザインの研究室!修士の研究では念願の幼児を対象とした開発を研究という形に仕上げるよう導いて下さいました。今年3月のBEAT成果報告会で先生が”テクノロジー10%、教育90%”というKeyWordでまとめてらしたのですが、教育効果のある人工物をデザインするにはまず教育そのものを考えなくてはならない、つまり、幼児期に相応しいメディアの可能性を模索するには、まず幼児教育そのものをしっかり見極めなければならないということでしょうか・・・。幼児であれば特に発達ということも大事なわけで、これがまた奥が深く、面白発見の宝庫であり、どっぷりはまっています。
今回の【山内研と私】シリーズで研究室の皆さんの記事を読み、改めて実感したのですが、学際という場所柄、研究室では様々な領域かつ幅広い年齢を対象とした学習環境に関する研究が行われています。(昔、自分の研究対象や内容がアウトローで、この研究室にいて良いものか悩み、先輩に訴えたことがあるのですが、実はその先輩自体も同じ気持ちだったようで「誰の研究がメインなんだろうね」なんて話になったことがあります・・・。)研究だけでなく、大学院入学までの経験も様々で、心理学・教育学・情報工学など幅広い分野の人材が集まっています。そのような現状を踏まえ、研究室では、研究の方法論に関する学習のサポートや、春合宿・夏合宿を中心とした補完カリキュラムが組まれていたりなど、各人の思いが研究という手法でまとまるよう、人的部分も含めてとても恵まれた学習環境になっていると思います。【山内研と私】シリーズを読んで、異ジャンルだと躊躇している方でも研究室に関心を持ち、少しでも多くの方が志望してくれるとしたら幸いです。
私自身は博士課程も後半戦に入り、今まで自分の興味の赴くままに進めていた研究が社会の中でどのような位置付けで、どのような意義があるのかを認識すると同時に、今後どのように進むべきか見極めていく段階にいるのだと思います。厳しい現実に打ちのめされる毎日ですが、あと少しの学生という特権的な生活を山内研という恵まれた環境で存分に謳歌したいと思います。
[佐藤朝美]