2008.04.16
今週は博士課程2年の佐藤から「今年の研究計画」をご紹介いたします。”今年の”ということですので、現在取り組んでおります開発研究を中心にご紹介したいと思います。
■問題意識
幼児のことばの習得は、主に親や先生など身近にいる大人との対話の中で行われています。やりとりを通して子どもは単語を覚えるだけでなく、自分の考えを相手に伝えたり、相手が言ったことの意味をくみとったり等、様々な処理を行なっています。一方大人の側では、子どものより高度な段階への発達を促すような語りかけを行なっています。子どものことばの習得における大人の役割については、非常に影響が大きいと考えられます。
■NarrativeSkillの研究
Narrative Skill習得における親の役割に関する先行研究では、語りの引き出しが上手な親とそうでない親がおり、その差が子どもの語り方や考え方にまで影響しているという結果を示しています。アメリカの中流家庭の親の多くは、幼い頃から語りの引出しの工夫を行なっているそうです。具体的に親が果たすべき役割としては、子どもが語る全体のストーリーを想定して、まず話が膨らむようオープンエンドな質問をし、次に足りない部分を補足するよう促しを行なったりするそうです。
■研究目的
本研究では、"子どものことばの習得を促す親の語りかけ"の向上を支援するシステム環境を構築します。システム構築においては、まず、先にも触れたNarrativeSkillの研究をはじめ、日本における幼児の語りについてや親子対話に関する先行研究についても調査分析を行います。特に、本研究で想定している支援対象=日本の幼稚園児の母親たちに、先行研究の様々な知見をどのように適用していくかについて、十分吟味する必要があると考えています。そこから支援原理を導き、システム環境を実装します。
■システムの開発
本研究で開発する具体的なシステムは、
「親子でお話作り」→「他親子のお話の評価」→「評価結果の共有」
という一連の流れを実施していくネットワークを介した学習環境です。
親子の対話を録画し、動画をWeb上のコミュニティに投稿、それを相互評価し、その結果を皆で共有しあうというものです。相互評価や他親子の対話の閲覧から、他の親の語りの引き出しがどのように行われているのかを見ることで、自分との差異を認識したり、上手な方の方略を取り入れていくことを目標としています。
■今後の予定
今後は、開発したシステム環境が有効であるのか評価するため、実際に親子に参加してもらい一連の流れを体験していただく予定です。ただし実際体験してもらうには、参加に対する動機付け、持続可能な活動自体の面白さ、システムのユーザビリティ等、解決すべき課題が山積みです。現在はシステム開発の途中なのですが、同時にこれらの課題も取り組みつつ、少しでも教育的に価値のあるものを作っていけたらと考えております。
また、自身の博士の「幼児の物語行為を支援する学習システムの開発研究」という研究へと結びつく、有用な知見を見出していきたいと思います。
[佐藤朝美]