2008.03.27

【今年の研究計画】因果関係の発見を促す歴史授業のデザイン―テクノロジーを利用して―(池尻)

来年度から山内研で研究させてもらうことになりました、新M1の池尻と申します。
歴史学科を卒業してこの山内研にやってきました。本来は世界史の教師になろうと思っていたのですが、現在の歴史学習に疑問を持ってしまったため、まずは歴史学習を研究して改善しようと思った次第です。
今回は僕の研究計画を披露したいと思います。

■歴史って何?
まず、みなさんは歴史にどういうイメージをお持ちでしょうか?

ただ暗記するもの?
静的なもの?
全体像が見えないもの?
今の世の中では役に立たないもの?

大半の人はこういう回答をされるだろうと思います。しかし、歴史学科を卒業した者としてはっきりと言えることがあります。歴史はとてもダイナミックで、扱い方次第では未来を切り開く大きなヒントをもたらしてくれます。
歴史家の巨人、E.H.カーは「歴史とは現在と過去との対話である」と説明しています。これは、歴史に何か正しいものがあるというのは幻想で、各時代、各歴史家が「なぜこうなった?」というフィルターを通して過去を見ることで初めて歴史は意味を持つのだ、という内容です。もっと砕いて言うと、自分の現在の興味に照らし合わせて過去を見る。そこから見えてきた法則(因果関係)を未来に活かす。これこそが歴史の重要な点なのです。
だからこそ、あらゆる時代、あらゆる人物は、歴史から現在の問題を解決するための法則(因果関係)を探し出さなければいけない。というよりは、せっかく先人が身をもって明らかにしてくれた試行錯誤の結果を生かさないのはもったいないと僕は思っています。

■じゃあ歴史ってどう学ぶの?
みなさんは歴史を学んだことがあると思いますが、どれくらい覚えているでしょうか?もうすっかり忘れたという人も少なくないと思います。実は僕も高校で習った内容はほとんど忘れてしまいました。そして、実は歴史の教授も自分の専門外の歴史はほとんど覚えていません。
しかし、歴史家にあって一般人にない決定的ものがあります。それは上で話した、法則(因果関係)を見つけるスキルです。実はこれがないと、歴史から現在の問題を解決するヒントを見出すことはできません。
では、学校で行われている現在の歴史学習はどうでしょう?やはり受験勉強のために暗記中心になっているものが多いというのが実状でしょう。もちろん、大半の先生は歴史の流れや因果関係も教えているでしょうが、因果関係を見つけるスキルを実際に子供達に教えて、さらに現実に活かさせようとしている先生は少ないのではないでしょうか。
もちろん暗記も大切ですが、子供達が自分達の関心に基づいて、子供達なりに歴史から法則(因果関係)を見つけるという学習を組み込む授業設計が必要だと僕は思います。

■じゃあどうやってそのスキルを教えるの?
これを教えようとしている試みは海外、国内共に昔からあります。でもほとんどは知識習得を軽視しており、無責任な教育だと非難されてきました。これは現在の教育と同じで、教師主導への反動として児童主導にしたことに対する批判です。僕としては、どちらかの立場だけで教育を行うことは無理だろうと感じています。そこで、両者をバランス良く組み込めるような授業をデザインすることが研究者の使命だろうと思います。
では歴史学習において、いかに知識を習得させつつスキルも育てるのか。これはかなりの難問です。何故なら、他の教科に比べて歴史の持つ知識量は膨大すぎるためです。また、世界史の場合に特に顕著ですが、国や時代が多様すぎて、系統的に教えることすら難しいのです。これをどう解決するか。一年かけてじっくりと考えていきたいと思います。

■希望の光―テクノロジー―
これを解決する際の鍵は、おそらくテクノロジーだろうと僕は踏んでいます。現在、歴史史料のアーカイブ化がどんどん進んでおり、今までは入手困難だった海外の史料も手に入りつつあります。歴史学習におけるインフラ整備は確実に進んでいると言えるでしょう。
また、コンピューターは歴史における大量の知識を詰め込むことも、検索することも、また人目でわかるように表示することも可能です。この特性を考えれば、歴史授業をデザインする際にテクノロジーは多くの問題を解決してくれるでしょう。

まだまだ未完成な研究案ですが、将来的には学校現場の歴史授業を初め、博物館や美術館、企業などでも、歴史を通して新たな知見を生んでいけるテクノロジーをデザインし、温故知新型の社会を作っていきたいと考えております。

長々とお読みいただき、ありがとうございました。

[池尻良平]

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