2008.01.03

【研究に役立つウェブサイト】時の紡ぎを残すこと

国立国会図書館デジタルアーカイブポータル PORTA
http://porta.ndl.go.jp/

〈お年玉企画〉「BitTime」(タイマーソフト)

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 新しい年も明け,平成も20年目へと入りました。かつて故小渕氏が「平成」という年号の額を掲げて示したときから,ほぼ一人の成人が育つまでの年月が経過したということであり,その時間の長さについてはそれぞれの方々がそれぞれに感慨をお持ちになるのだと思います。

 時の流れがいくら続いても,残す努力なしには歴史の積み重ねにはなりません。私たちの頭の中の記憶は儚いもので,語り継ぐことや書き記すことをしなければ,たやすく消え失せてしまいます。さらに,語り継ぎも記録の保存も実践は思いの外大変なことであり,その地味な印象のせいで,しばしば顧みられないときさえあるのです。

 しかし,情報通信だの知識だのの形容で表される現代社会において,私たちは情報の膨大な蓄積を基盤とする世界のなかで社会活動を営んでいます。そして,情報の活用ができる能力を求められもしています。

 一方で「無意識のうちに」膨大な情報が蓄積される処理が進行し,一方で「意識的に」情報の活用が奨励されているという,なんともアンバランスな事態が展開しているということです。

 メディアリテラシー教育などで,報道メディアにおける情報の捌き方などを学ぶような取り組みも展開され,情報がどのように記録され(また伝えられ)るかを学ぶ機会があります。しかしそれらは,世の中における情報記録や蓄積に関する活動のほんの一部でしかなく,全体は追いきれないほどです。

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 昨今,国立公文書館を独立行政法人から国の機関へと戻すとともに,我が国における文書館制度を整備しようとする動きが強まっています。アーカイブスの領域は,考えてみると,この国においてかなり端っこの方へと追いやられていた領域であり,その後進性は,先進国としてあるまじき状態という評判さえ生んでいました。そうした現状において,公文書館制度(アーカイブス)に関して注目が集まり始めたことは喜ばしいことでもあります(ただし一方で,性急にことを運んで失敗するというこの国の悪い癖についても用心しなければなりませんが)。

 それにしても,従来までのアーカイブスに対する無関心は,決して他人事ではなく,おそらく,学術研究の成果に対する世間の無関心とも地続きの何かがあるような気がします。

 そもそも学術研究は,連綿とした継続性の中で理解して初めて個々の研究が意味を成しうる世界です。そういう意味では,アーカイブスという領域とは切っても切れない関係を維持してきたともいえます。学術研究に携わる者は,おそらく誰もがこの問題について一家言持っており,ひいては教育論としても展開していく問題といえるでしょう。

 その議論がどうあれ,どう割り引いて考えても,そのような学術研究におけるアーカイブスの重要性とその蓄積や系譜の中で研究を理解しなければならないことの本質を,社会一般に理解してもらうことが成功しているとはいえません。なぜそのようなことがいえるのかといえば,たとえば「サイエンスコミュニケーター」といった科学知識などの伝道師育成の必要性が叫ばれていることや,「教養」に対する関心の高まりなどが周辺的な証左としてあげられます。そうした動きが出てくるということは,それが不足していたか欠けていたからであるとも考えられるからです。

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 ylab-blogでは【研究に役立つウェブサイト】と題して,たくさんのアーカイブス(データベース)やその入口が紹介されてきました。日本の学術関係ならばポータルサイトGeNiiはアーカイブスの基本中のキですし,それぞれの研究領域における興味深いウェブサイトはまさに小さなアーカイブスといえます。

 今回メインでご紹介するのは,国立公文書館と並んでアーカイブスの雄である国立国会図書館がつくった「国立国会図書館デジタルアーカイブポータル PORTA」です。日本における有数のデジタルアーカイブスを一元検索できるようにと提供されています。

 デジタルアーカイブスと文書館のような旧来イメージのアーカイブスとの関係については,奥深い議論が待っていますので,それはまた余裕のあるときにアーカイブス学や記録管理学,あるいは図書館情報学などの諸分野について触れていただくのがよいかと思います。いずれにしても,残された記録への「アクセスのしやすさ」という側面は重要であり,その認知の普及を通して,むしろアーカイブス本来の主題である「残す」という側面への理解がより深まることが今後望まれているのだと思われます。

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 グダグダと情報の蓄積とその理解の重要性を綴りましたが,要するにその場の空気を読むこと以上に,歴史の文脈を読むことは大変なことであり,そのことを上手く伝えることもまた難題だということです。

 今日までに至る平成の20年間を要約することすら,なかなか大変な作業です。ゆえに普段の生活での私たちは,そうした膨大な情報からうまく自分自身を隔離するための術(たとえばステレオタイプという概念)を持っていたりします。そうした個々人の殻を破るよう複数の人間が互いにコンテキストを共有すること,たとえ大変な作業だとしても,私たちは是非ともそこをうまくこなして,前向きに前進することに多くの努力を注がなければなりません。

 そのためにも普段からアーカイブスを蓄積管理していく努力とそのことへの理解が通底音のごとく維持されていなければならないのです。ひいては,そのような知的財産や学術成果に対する一定程度の見識眼を養っておくことが必要です。おそらくは,それが「教養」の必要性議論として現れているのだと思われます。

 今回は,どのような研究分野や領域であれ,そのことについて研究する側にも意識と想像力が必要だということと,それを感じる一つのウェブサイトとして「国立国会図書館デジタルアーカイブポータル PORTA」をご紹介した次第です。すぐに役立つというわけにいかないのが,玉に瑕ですけどね。

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 さて新年早々,堅苦しい文章をお読みいただき感謝感謝。私からお正月のお年玉プレゼントということで,ソフトウェアを提供させていただきます(今回はMac OSX用です)。
 「時を紡ぐ」ということに掛けて,タイマーソフトです。同様な機能のソフトはいろいろありますが,時間表示が大きくてシンプルな操作のものは意外と少ないので,あらたなバリエーションとして開発しました。「BitTime」と名付けました。

 ディスカッションの場面や,ワークショップの場面などで,活動時間を計測したり,表示したいときなどにお使いください。また今後は学会発表タイマーとしても使えるように改良したいと思っています。

bt.gif
【BitTime for OSX Ver0.22】→ ファイルをダウンロード

 ウインドウズをご利用の方は,今回のソフトの元ネタである「キッチンタイマー鉄」がより便利だと思います。また「BitTime」に対する感想やフィードバック,「こんなソフトがあったら嬉しい」というお話などありましたら,教えてください。


 それでは皆様にとっても今年がよい年になりますよう。

[林 向達]

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