2007.11.29
学習に関心があるといった人々の界隈にいると,「どうすれば(なぜ)人が賢くなるのか知りたい」と思いを抱く人たちによく会う。ところが,なぜか私は「賢くなる」という部分が(実のところ)ピンと来ない時があって,会話の中で模索を始めたりしてしまう。
私自身は,人間の「単純素朴」さみたいなところに対する(それこそ)単純素朴な依拠があって,人間の複雑さというのは,単純素朴なものの「織り成され」によって成り立っていると思っていたりする。だから,人が賢くなるということが「織り成され」ることによる結果としてのものを指すなら,なんとなく共通理解もできる。
しかし,ある「たった一織り」が物事を分からなくしてしまうものだ,とも考えたりするので,人々がいう「賢くなる」というのが線形に発展・発達していくようなイメージのものだとすると,たまに違和感を持つのである。
人は経験を積めば物事に精通することで確かに賢くなっていく部分がある。でも,実際問題,経験を積むほど明後日の方向へと自分が押しやられていく感覚を感じたことが,皆さんにもきっとあるのではないか。
そして,研究という領域において,今まさに私自身がそういう状態に陥っていたりする。いやはや,理転みたいなことを今さらすると大変である。
「困ったときには初心に戻ろう。」単純素朴な私の定石である。
ゼロベースに戻って,研究法に関する入門書や概論書を漁ってみたりする。様々な人たちが,あの手この手で解説してくれるのだが,なかなかスペシフィックな自分の状況に合うものに出会うのは難しい。
あっちの文献のこの部分,こっちの文献のこの部分…。そうやって自分の腑に落ちる解説をつなぎ合わせて,焦点を合わせようとしてみる地道な「織り成し」作業を続けるしかない。あくまで私流。
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さて,今回は,海外のサイトに目を向けて,「How to do reseach」を解説してくれるサイトを覗き見てみよう。あくまでも感触なのだけど,海外の方が研究に関するガイドをかなり意識的に提供しているように感じる。まずご紹介したいのは,こちら。
Research and Documentation Online
http://www.dianahacker.com/resdoc/
文章作法関連のハンドブックなどを書いているDiana Hackerさんのサイト。研究法というよりは論文執筆ルールの入り口を紹介している感じであるが,Humanities, Social Sciences, History, Sciencesの各分野について分けて構成した,デザインもキレイで印象的なサイトである。
英語論文の執筆や体裁について知りたければ,サンプルもあって,形から入りたいあなたには良いかも知れない。
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大学院生として良き研究をするならば,良き大学院生になりたまえ。ということなのか,研究者としてのスキルを身につける大学院生時代をどう過ごせばよいのか,というアプローチのアドバイスもある。
How to Be a Good Graduate Student
http://www.cs.indiana.edu/how.2b/how.2b.html
この手の話は教条的になりやすいのかも知れないし,分野が違えば過ごし方や作法も変わると言われればその通り。好き嫌いはあるかも知れない。それでも「そんな考えもあるのか」と自分自身を比較したり,大学院生や研究者の卵がどういう世界にいるのかを知りたければ,参照してみるのも悪くない。
ちなみに日本語サイトも何か紹介してよ,というリクエストがあるのか分からないけれど,こんなサイトもあったりする。
博士の生き方
http://hakasenoikikata.com/
むむむ,リアルすぎて,ちょっと気が重たくなるかも。ん?なんか趣旨から遠ざかってるな…
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でもやっぱり,良い手本としての研究成果に触れることが何より大事なのかも知れない。習うより慣れろ。とにかく自分の関心と近い先行知見にアクセスしてみて,真似てみることから学んでいく方法だ。
もちろん先行知見を参照するには,すでにここでも紹介されている様々な論文データベースや検索サイトを利用すればいい。それはまあ,そちらを見ていただくとしよう。
ここでは,最近流行り?のビデオ配信で研究成果を紹介するサイトをご紹介。
Research TV
http://www.research-tv.com/
イギリスにはTeachers TVというのもあるが,研究者向けのものもあったりして,こういうの好きな国だなと思う(追記:ああ,大変失礼しました。このサイト,気がついたら今年の8月に閉鎖された模様…,志しあっても道半ばの事例として眺めましょう)。日本にはこんな地道な活動をしているサイトがある。
研究者図鑑
http://www.zukan.tv/
人の振り見て,我が振り直せ。たくさんの人の知見を眺めてみれば,何かヒントがひらめくかも知れない。かも知れない,かも知れない,かも知れない…。
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こうやって,寄り道ばかりするので迷うんだ。というオチはさておき,こんな回り道をしていると,研究の世界の語りが,世間で十分な背景事情を了解されずに受容されたり,消費されたりしていることを痛感したりする。
しかも,研究法の外枠が似ていても,そこで何をどう展開するかは,分野によってその内実はかなり違うように思う。それは最初にご紹介したResearch and Documentation Onlineというサイトが4つの分野に分けて解説していることにも表れている。
さらに,ここ情報学環が「学際情報学」を構築していく道のりで取り組んでいることの一つである,「様々な分野の研究法やスタイルの違いを乗り越える」努力からも,それは伺い知ることができるように思う。
そうした多様な研究に対して自分自身を適応させるには,自分の殻に閉じこもらず,いろいろ見て回り,自分の中でギュッと圧縮しながら自己調整をかけていくことしか方法はないかなと思う。
というわけで私,いま圧力釜状態です…。
[林 向達]