2007.07.19

【受験生に薦める1冊】「子どもとニューメディア」

リーディングス 日本の教育と社会-⑩ 
子どもとニューメディア(2007)監修広田照幸 編著北田暁大・大多和直樹,日本図書センター

 私たちは、「子どもとメディア」という言葉から、何を想像するでしょうか。子どもたちが生き生きとメディアを活用し学ぶ姿でしょうか。それともメディアの負の側面に晒され翻弄される子どもの姿でしょうか。

 【本の特徴】
本書は、先月刊行されたばかりの論文集です。

 身近なようでいて実は、非常に捉えがたい「子ども」と「メディア」の関係に迫った代表的な論文を21編集めています。
 
編者は冒頭、次のように述べます。

 「子どもとニューメディア」というアジェンダ、「メディアは子どもたちに悪影響を与える」というネガティブな議論と、「新しい情報技術、メディアは輝かしい未来社会を可能にする」といったポジティブな議論というにわかには整合しない二つの言説群が、しかし奇妙なことに無摩擦に混在している。」(北田・大多和 P6より引用)

メディアと子ども(大人もそうであると思いますが)の関係は、メディアが善か悪かという二分法ではとうてい捉えきれるものではありません。非常に複雑かつ流動的、重層的な厄介な問題です。 しばしば語られるこのような二項対立の議論を乗り越えるために、この本では、教育学だけではなく、社会心理学、社会学、メディア研究、歴史研究などの研究領域から、それぞれの視点に基づいて分析された様々な結論を有する論文が集められています。

【本書の構成】
 21本の論文を、全4部に構成しています。

 第1部 メディア環境と子ども
 ニューメディア、その「新しさ」と子どもとメディアの関係を歴史的に探る論文

 第2部 教育の磁場とニューメディア
 教育分野において、ニューメディアがどのように議論されてきたのかを包括的に捉えた論文

 第3部 情報社会の病理?
 情報社会に生きる子ども・若者の「病理」にかんする論文

 第4部 ニューメディアと若者(1)-ケータイとコミュニケーションの変容
 近年、語られる子ども・若者批判に繋がるメディアの議論に対抗する論文

 第5部 ニューメディアと若者(2)-インターネットのコミュニケーション空間
 インターネットにかんする社会科学的研究の中で重要かつ教育に関連するもの論文

 本書は、複合的な研究知見を編み合わせることで、私たちが、子どもとメディアを様々な視点や方法で考える契機を与えてくれます。

また、各部冒頭に大多和直樹先生による解説があり、全体像をつかむことを助けてくれます。

【お勧めの理由】
 受験に当たっては、どのような研究分野で、どのような研究手法で、どのようなデータを元にして論文が書かれているかという「研究内容の広がり」と「研究スタイルの違い」を参考に出来ると思います。ご自身の研究計画と比べてみるのも良いでしょう。また記述試験の参考になるやもしれません。
 
 また、各論文がいつ、どのような時代状況を背景に書かれたものか留意し、自分のメディアに対する考えを比べることで、自分の問題関心を浮き彫りにすることもできるかもしれません。本書で取り上げられたメディアが受験生の皆さんにとって、いかなる意味で「ニュー」であるかは様々だと思います。

 編者の一人は北田暁大先生で、掲載されている論文には、吉見俊哉先生、水越伸先生、橋元良明先生と本書には、学際情報学府とゆかりのある先生のものがあります。

 山内研究室を希望される方には、美馬のゆり先生の書かれた「電子ネットワークが広げる子どもの可能性」(第2部7本目)が馴染みやすいでしょうか。(美馬先生は山内祐平先生と共著で、『未来の学びをデザインする-空間・活動・共同体』を書かれています。)

それぞれの先生の論考を読み、参考文献等から勉強されても良いかもしれません。

 各論文の参考文献に加え、巻末に基本文献が紹介されていて情報量も豊富です。濃密な1冊です。

[酒井俊典]

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