2007.07.05

【受験生に薦める1冊】「よくわかる心理統計」

山田剛史・村井潤一郎(2004)『よくわかる心理統計』ミネルヴァ書房

今回の「受験生に薦める一冊」は統計の勉強をするのに役立つ書を紹介しようと考えました。ところが,統計を勉強し始めて気づくことは,「これ一冊でOKというテキストがない」ということだったのです。

というわけで,お薦めする本は一冊ではなく,複数の本となるのですが,代表選手として『よくわかる心理統計』をタイトルとして掲げました。この本の筆者の方々自身が「どうも適当な教科書がない」という思いから執筆し始めたテキストであることと,文系人間に対して丁寧に解説を重ねている点で助けになることが多い書だからです。

ただ残念ながらこの書を持ってしても,万事OKというわけにはいかないのです。いや,根気強く付き合えば,この書はかなり役立ちます。それは確かです。けれども,「心理統計」と銘打たれていることからもわかるように,この書も統計の一側面を照らしているに過ぎないのです。

ちなみに山内研で触れる統計は「心理統計」であることも多いので,そういう意味でこの書をぜひ読んでおきたいものです。

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いろんな論文に触れるようになると,統計の手法を使った研究に出くわします。文章で論じらる事柄は読んで理解できても,統計の数値を表やグラフで示された部分を見て歯がゆく思ったこと,皆さんにも経験があるのではないでしょうか。自分にはわからないけれど,統計的手法を使った高度な研究なのだなと,変に崇めたりした頃もありました。

しかし,どうも納得できない。統計というのはそんなに凄いものなのか?募る疑問を解決するには,自分で統計という言語を理解するしかありません。そうやって統計を勉強しようと航海に出たあなたは,すぐに後悔するはめに陥ります。

何しろ「統計」の名の下で括られているものは,同じ数式や根本の考え方で繋がれてはいるけれども,その応用は多種多様であり,しかも方言も多くて,独学するのはとても大変だからです。

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こんな時にはイメージで理解するという方法も悪くはありません。オーム社が満を持して出版したのが,高橋信(2004)『マンガでわかる統計学』でした。過去にもマンガで統計を説明しようとした書はありましたが,この書の凄いところは,それらと作画レベルで一線を画しながら内容は一定水準を保っている点です。作風の好みはあるかも知れませんが,侮れない一冊です。

しかもこの書は,翌年に『マンガでわかる統計学[回帰分析編]』という続編を出し,さらにはその翌年に『マンガでわかる統計学[因子分析編]』がシリーズとして出版されました。マンガとしても3冊には物語のつながりが持たされているという面白味があります。

マンガというメディアは,文章表現とは異なり,登場人物のやりとりを成立させるための工夫が必要となります。そうした工夫の上に「統計」という世界を乗せることで,これまで見えづらかった部分がよく見えるようになっているとも言えます。

もちろんこの書も,統計の一側面でしかありませんし,方言の問題を解決しているわけではありませんが,頭の中のイメージをつくるにはとても有効ですし,それは他の文献を読むときにも助けになります。

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実は統計を学ぶときに困るのは,ここから先です。入門から応用へと進もうとする途中で統計の勉強を下支えする良いテキストが見あたらないのです。いろんな統計の書を探してみても「帯に短したすきに長し」ということが多い。しかも統計を使おうとする分野や研究領域によってさらに選択肢は限られていきます。

広田すみれ(2005)『読む統計学使う統計学』慶應義塾大学出版会は,社会科学分野に的を絞って,手際よく統計学に関する知識を開陳してくれます。しかし手際が良すぎて,置いてかれてしまう人もいるかも知れません。

鳥居泰彦(1994)『はじめての統計学』日本経済新聞社は,定評のある入門書ですし,見た目のシンプルさに反して意外と丁寧だったりもしますが,扱う範囲が入門から少しの部分までで,この先へ進む人には物足りない。

吉田寿夫(1998)『本当にわかりやすいすごく大切なことが書いてあるごく初歩の統計の本』北大路書房は,すごく大事なことが書いてある点で看板に偽りがなく,実際とても丁寧。けれども,文字の多さに圧倒されてしまいがち。この本を信じてついて行く覚悟が持てればいいが,覚悟を持つにはまだ知識が足りない私たちには悩ましい。

これら以外にもまだまだたくさんありますが,とにかく自分に合うものを地道に探していくしかないようです。

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最後に,私たちが初等統計学という授業で使用しているテキストをご紹介。M.K.ジョンソン/R.M.リーバート(原1977/訳1998)『統計の基礎』サイエンス社です。この書は,独学するには訳に癖もあって少々取っつきにくいですが,授業で解説していただきながら勉強すると,いろいろ見えてきて面白いです。

異例の長さとなった今回の「お薦めの一冊」。統計に関する本を探している皆さんは参考にしていただきつつ,やはり統計は誰かから学びながら実際に計算したり作業を通して憶えることが大事なのだなということをお伝えして終わりにしたいと思います。

[林向達]

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