2007.06.29

【受験生に薦める1冊】「メディア・ビオトープ」

水越伸,2005『メディア・ビオトープ』紀伊国屋書店

この本に初めて出会ったのは学部時代で,院試勉強の際にも何回も再読しました。
日本のメディアの「生態系」の問題点やそのあり方について,非常にわかりやすく説明してくれていると思います。

この本の大きな特徴は,メディア表現活動が継続的な活動として展開,発展し,人々に根付いていくための方法を,生き物の世界に向けた人間の働きかけ方の1つである「ビオトープ」に隠喩して表現していくところにあります。その際,難解な専門用語を使用せず,著者が描写したイラストを各所に埋め込むことで,そのイメージをかき立てながら説明していくことも本書の特徴だと思います。

前半では,「日本のメディアの生態系」の問題点として,強大な杉のようなマスメディアの人工林が立ち並び,地方紙やケーブルテレビなどといった小さなメディアが生息しにくくなっている点を挙げています。
そのような問題を打開しうるモデルとして取り上げられるのが「ビオトープ」です。小さく,身近な場所もまた重要な「生態系」の一部であることをそのままメディアに置き換え,個々の活動の重要性を示します。また,個々の「ビオトープ」は「点」としてその中での生態系を維持するだけではなく,互いにネットワークとしてつながった「面」として地球の表面を覆っていかなければいずれは廃れていくことに触れ,それをそのままメディアに当てはめて説明していきます。

後半からは,この「メディア・ビオトープ」を形作っていくための3つの営みとして,「メディア実践」「メディア・リテラシー」「メディア遊び」の3層構造について説明していきます。「メディア・ビオトープ」を支え,その中の"あな"や"すきま"に棲みついて活動いく中心的な人物を「球根」に例えるなど,最後まで一貫して生態系を比喩とした説明による展開は変わりません。

個人的には,「メディア・ビオトープ」がネットワークでつながっていく様子は,実践共同体のそれに似た側面があるのではないかと思います。読む人それぞれの持つ背景に近いところからメディア論を読み解いていけるのではないでしょうか。
[坂本篤郎]

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