2007.06.14

【受験生に薦める1冊】「コミュナルなケータイ」

水越伸[編著]2007『コミュナルなケータイ』岩波書店

2004年にMELLプロジェクトの中ではじまったケータイ研究のプロジェクト、MoDeプロジェクト(Mobiling & Designing Project)の成果を、メンバーがまとめた本。「コミュナル」という聞き慣れない言葉は、「共有の・協働による」という意味です。

ケータイはパーソナルなコミュニケーションのメディアであるとされがちです。しかし、そのような極私圏とパブリックな公共圏との間に、市民が自律的に関われるコミュナルな空間(ビオトープ的な空間、という言い方もできるでしょうか)を生み出すことができるメディアとして、ケータイは多くの可能性を秘めています。この本では、ケータイをめぐる歴史社会的研究と批判的メディア実践(ワークショップ)のサイクルの中で行われてきたMoDeプロジェクトの研究の成果・記録を見ることができます。今年3月に出版されたばかりの、メディア論におけるケータイ研究のまさに最前線の本です。

第1章ではケータイをめぐる問題状況とMoDeプロジェクトの視座が示され、第2章ではケータイを異化するワークショップと歴史研究が並びます。続いて第3章、第4章では、今あるケータイを超え、それを編みかえていくさまざまな事例が報告されていきます。各章はどれも刺激的で遊び心にあふれており、全く退屈することがありません。

この本には、フィンランドと日本で行った「ケータイの風景を演じる」ワークショップ、ケータイ・カメラを使った子ども向けの「世にもまれな地図作り」ワークショップ、同じくカメラを使った壮大な連想ゲーム「ケータイ・カンブリアン」ワークショップなど、毎日アタリマエのように使っているケータイを異化し、超え、編みかえることを意図した数多くのワークショップの実践事例が報告されています。その意味で、この本はワークショップの本でもあると言えます。

批判的メディア実践とは何か、ワークショップとはどのようにデザインされるのか、理論と実践のバランスをどうとるかなど、学ぶことのできる点は多いと思います。BEATの「おやこdeサイエンス」や「なりきりEnglish」もケータイを用いたモバイルラーニングのプロジェクトですね。しかし、そもそもケータイとはいったい何なのか。それを鮮やかなやり方で問い直すメディア論的な視座は、教育工学を研究する上でも有用なものだと思います。

[平野智紀]

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