2007.06.08

【受験生に薦める1冊】「アフォーダンス - 新しい認知の理論」

ゲシュタルト心理学による"こころ"というデカルト以来のメカニズムへの反論からはじまる本書は,認知科学や生態心理学にあまり馴染みのない読者をも惹き付けるだけの魅力が詰まった1冊だと思います.難解な理論が,驚く程容易な文章(!)で流れるように説明される本書は,アフォーダンスを始めとした生態学的心理学のキーワードへの良い羅針盤となってくれるのではないでしょうか.

視覚とは網膜への画像の投影であるという古典的理論には,網膜という感覚器官への「点刺激」を「推論機構」によって処理する過程が必要であるという前提がありました.ここに現実の世界との不整合性を見抜いたギブソンは,視覚の理論を拡張していきます.点と線から面へと,面からレイアウト,動きへ,そして動きから包囲光へといたる理論拡張が,ひとつの流れとして描かれるさまは本書の醍醐味でもあります.この結果,ギブソンは視覚は網膜を必ずしも必要としないという,とてもラジカルな理論へとたどりつくのです.

情報は,光の中にある.それまでの情報処理モデルを前提とした(つまり頭の中に情報があるとした)知覚理論とは異なる,ひとを包囲する光の中にこそ情報があるという知覚理論,生態学的認識論の誕生でした.

そのような情報は,"動物との関係として定義される環境の性質"としてのアフォーダンスも提供します.難しく,誤解される傾向があるアフォーダンスも,本書の流れの中でとらえれば,環境が動物に提供する"価値"として,"動物にとっての環境の性質"として明瞭に浮かび上がってくるでしょう.

さらに,アフォーダンスを知覚するための身体を考えれば,それまでの身体の動きを細かく分割して制御しているという運動制御モデルは相容れないものであることが主張されます.そこでギブソンは,協応構造や視覚による運動制御,知覚と行為のカップリングとしての"共鳴・同調モデル"といった新しい理論を打ち立てていくのです.

著者であり,日本の生態学的心理学,アフォーダンスの第一人者でもある佐々木先生の筆による格好の入門書でもある本書は,しかしながら,
・知覚にとって"環境"がどのようなものであるのか
・知覚が獲得する"不変項"がどのようなものであるのか
・そして知覚のために身体はどのような"システム"であるのか
を深く考えさせ,同じく佐々木先生の著書である「アフォーダンスの構想」やギブソンによる「生態学的視覚論」といった,より高度な内容を知りたくさせる,そんな良書でもあると思います.

佐々木正人 (1994) 「アフォーダンス ー新しい認知の理論」岩波書店

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