2007.03.29

【Book Review】「三葉虫の謎」

リチャード・フォーティ著 垂水雄二訳(2000=2002)『三葉虫の謎』早川書房

「三葉虫」という生き物をご存知でしょうか? そう、理科の教科書などでおなじみの、殻を持った、平べったい古代の節足動物です。非常にポピュラーな古生物なので、皆さんも写真や映像など、どこかで一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。この本は、三葉虫研究の第一人者であるイギリスのリチャード・フォーティ博士によって書かれました。

研究者が書いた本だから難しいことばかり書かれているかというと、そんなことはありません。トマス・ハーディの小説の一節から始まり、硬い殻、柔らかい脚からその進化のプロセスへと次々に語り継いでいく著者の語り口に、読者は一気に引き込まれてしまいます。その後も、化石発掘の際の苦労と喜び、同僚の科学者との交感、科学者の日常生活など、数多くのエピソードを基に、三葉虫研究の最前線がわかりやすく語られていきます。

この本で、三葉虫研究を通じて著者が語ろうとしていることは、三葉虫という生き物の詳細な生態だけではありません。著者は、科学するということ、あるいは、科学者という生き方について、多くのことを述べています。言ってみれば、三葉虫の“眼の探求”を通じた、科学者の“眼の探求”です。

研究の最前線とは、いつも過去の偉大な業績との戦いであり、その意味で過去は不変ではあり得ず、変わりうるものであるということ。科学とは協調的なプロセスであり、科学者同士が協力し、ときに対立しながら、ともに知を作り上げていかなければならないこと。絶対的な真理など存在せず、科学者たちはその方向へと向かい続けることしかできないこと…。これらは、古生物研究だけに言えることではないと思います。

物言わぬ三葉虫の眼が、私たちに多くのことを語りかけてきます。私たち人類は、三葉虫の生きた時代:2億5000万年のうち、まだ1000分の1も生きていないのです。[平野智紀]

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