2007.03.23
トム・ケリー&ジョナサン・リットマン 鈴木主税訳(2006)
『イノベーションの達人!発想する会社をつくる10の人材』
早川書房
この本は以前、平野さんのほうで紹介していただいた「発想する会社!」の続編に当たる本です。(前作の詳しい話は、そちらの書評をご覧下さい。)
前作のポイントをヒトコトでいうのならば、IDEOという会社の「イノベーションの方法」について書かれたものでした。クリエイティブな仕事の土台となっている「企業文化」や、「環境」、「技法」について書かれており、そのやり方は非常に大きなインパクトを与えました。
今作で注目しているポイントというのは、ズバリ「人」です。前作で紹介したような企業文化を実現には、なんといっても、それを支える人材が必要です。今作では、そこに必要とされる人材の役割を10のキャラクターで表現し、ホットなチームへ必要な要素について述べています。
10のキャラクターは大きく3つのカテゴリーに分かれています。
・情報収集をするキャラクター
1 人類学者:観察する人
2 実験者:プロトタイプを作成し改善点を見つける人
3 花粉の運び手:異なる分野の要素を導入する人
・土台をつくるキャラクター
4 ハードル選手:障害物を乗り越える人
5 コラボレーター:横断的な解決法を生み出す人
6 監督:人材を集め、調整する人
・イノベーションを実現するキャラクター
7 経験デザイナー:説得力のある顧客体験を提供する人
8 舞台装置家:最高の環境を整える人
9 介護人:理想的なサービスを提供する人
10 語り部:ブランドを培う人
本の中では、それぞれの特徴、役割が細かく書かれています。今作も、前作と同じく、具体例が豊富であり、身近なものを取り上げていることも多いので、気軽に読み進める事ができます。
ポイントとなっているのは、イノベーションについて、ひとりの天才に注目するのではなく、キャラクター同士のチームプレーとして捉えている点です。例えば、ある問題について、人類学者が人々の様子を観察して情報を集め、コラボレーターなどがイノベーションのための土台を作り、語り部が聴衆をあっと言わせる。
こうしたチームを作る事で困難を乗り越えようとしています。
イノベーションを起こす方法については、おそらく様々な本が出ていると思いますが、この本がよいところは、問題を身近に感じられるところかなと思います。それは分かりやすいメタファーを用いてキャラクターの説明しているだけでなく、IDEOという会社で起こっている事を題材としたり、豊富な実例があるからでしょう。
より専門的な本とはまた別に、こうした本を読む事で、大きなイメージをつかんだり、専門書とはまた違ったインスピレーションを得る事ができるのではないかと思います。前作を読んだ方は、ぜひ今作も読んでみたらいかがでしょうか。[舘野泰一]