2006.10.08

【Book Review】『科学を考える』

岡田猛・田村均・戸田山和久・三輪和久(編著) (1999) 科学を考える 人工知能からカルチュラル・スタディーズまで14の視点. 北大路書房, 京都.

この本は,「科学を科学する」ことによって科学を考えている本です.そしてタイトルにあるとおり,「科学を科学する」といっても,単一の視点からではなく,各章でアプローチが異なっています.
第一部は認知心理学,認知科学,人工知能,教育心理学のアプローチからなる計五章,第二部は図書館情報学,科学社会学・科学技術社会論,カルチュラル・スタディーズ,科学史のアプローチからなる計六章,最後の第三部は科学哲学のアプローチからなる計三章で構成されています.

大学院にいて「科学」とは無関係であるということはなかなか難しく,このブログを読まれる人の大半にとって,「科学を考える」というテーマをもつこの本は興味深く読めるのではないかと思われます.

しかしながら単に,多くの人にとって興味深いはずだからこの本を薦める,というわけではありません.

おそらく,山内研究室周辺においては,第一部は興味深く読めるだけでなく,学べることも多くあるのではないかと思います.
というのは,第一部には「科学する人」を研究対象とした研究が並ぶのですが,それでも研究手法の重複があまりみられません.認知心理学的実験,質問紙調査,参加型観察手法,インタビュー手法,計算機シミュレーションと,教育工学分野で用いられそうな研究手法のオンパレードです.
基本的な研究対象が共通していながら,その中での目的の差異によって研究手法が使い分けられている事例は,特にこれから修士研究を進めていくM1の方などには,自分にとって必要な研究手法を考える良い材料になるのではないかと思います(山内研究室の春合宿にはその目的がありますが).

もちろん,第一部だけ読めば十分というわけではなく,第二部,第三部も読む価値が十分にあります.
特に学際領域にいる人間には,第二部のジャーナルシステム・妥当性境界の話などは,重要な意味をもつのではないかと思います.

僕以外の方が読まれれば,また別の良さが見出せるのではないでしょうか.
ともかく,いろいろな味わい方のできる良書です.[北村 智]

PAGE TOP