2006.09.22

【Book Review】統計の本(基礎編)

大学で学習をする上で,多くの人が悩み,格闘するのは統計ではないでしょうか.今回は,ちょっとテイストを変えて,学習に関する研究をする上で,質的研究を志す人でも,是非手に取っていただきたい(そしていつもそばに携えていただきたい)書籍を2冊紹介したいと思います.

●田中 敏,山際 勇一郎 (1992) ユーザーのための教育・心理統計と実験計画法―方法の理解から論文の書き方まで.教育出版.

 この書籍で扱っている統計処理の範囲はちょっと狭いです.分割表・相関・重回帰・分散分析程度までしかカバーしていません.したがって,多変量解析やノンパラメトリック検定を志向する人にはちょっと不満があるかもしれません.

 ですが,この本のミソは,次のようなところにあります.

1.初心者が取り扱いを間違いそうな尺度の違い(名義尺度/間隔尺度/順序(順位)尺度)にフォーカスをし,分析の際に注意できるように指南している点

2.事例を交えることによって,どのようなケースで当該の分析手法を利用すればよいかを分かりやすく説明している点.

3.論文においてどのように統計の結果を示せばよいか,文章記載例を示している点.

 ある程度統計を使うようになっても,ぜひ参照したいのは第3の点です.論文に統計データを書く際によく参考にするのは,自分のテリトリーの学会論文誌だと思います.ですが,掲載された論文でも,読者にとって必ずしも十分に記載していない場合もあったりします(それは審査の結果ですからしようがないのですが).そんなときに,確認の意味を込めてこの本を手に取るとよいでしょう.細かい表現からきっと参考になります.

●森 敏昭,吉田 寿夫(1990) 心理学のためのデータ解析テクニカルブック,北大路書房.

 この書籍がカバーしているのは,分散分析も三元配置まで,ノンパラメトリック検定や質的データの統計処理(ただし,数量化理論などの多変量解析までは踏み込んでいません)など多岐にわたります.行動計量学や数理心理学を専門としないのであれば,この一冊でかなりのことがカバーできます.

 内容のテイストは,前述の「ユーザのための…」よりは2レベルくらいadvancedです.数式も書いてあり,一瞬ひるんでしまうかもしれませんね.ですが,単に数式を書いてあるだけでなく,その過程について,意味を十分丁寧に説明してくれているので,ちょっとまじめに読んでみると,とてもうれしい内容だということが分かります.近頃はSASやSPSS,Rをちょっと回せば大概の処理はできますが,何も勉強しないまま使うのはとても怖いことです.何をしてよいのか,何はダメなのかを真剣に考えるのには,数学が苦手でも十分理解可能な内容です.

 とくに統計処理をするときに,各手法で「使ってはいけない場合」がありますが,そうしたことも丁寧に記述されていますので,初めて学ぶ人でもぜひ手元に置いておきたい,まさに「修論のお伴」な一冊です.

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