2006.07.27
「新 コンピュータと教育」 佐伯 胖 岩波書店 (1997/05)
コンピュータは、1990年代後半より学校への導入が急速に進みました。初めて出会うテクノロジーに対し、基本的な方針をもてないまま、その対応におわれるだけという混迷した状況も見られました。そんな当時に出されたこの書籍では、人間教育の立場からコンピュータを利用することに主眼をおき、インターネットの活用も含め、その問題点と可能性を指摘しています。
「本当の学びを育てる」道具としてのコンピュータ利用というものはどういうものでしょうか。このことを考えるために、「本当の学び」を再検討し、その観点から望ましいソフトウェアの条件を以下のように導いています。
1.真正の文化的実践へのアクセスが可能になっていること
2.自分にとっての学びの道具とするために、
「自分さがし」「自分づくり」に貢献するものであること
3.他者とつながり、コミュニケーションをもって、
「学びの共同体」をつくり、それに参加していく道が開かれていること
この条件は、10年近く経た現在でも変わらない指針といえるでしょう。
Ylablogでも度々出てくる言葉に、「オンラインコミュニティ」がありますが、これは、3つ目の「学びの共同体」のインターネット版といえます。学校を超えて、地域、家庭まで、オンラインコミュニティは今後益々拡張していくと思われます。本書のような道具や環境により変わらない本質を追求するという視座は、こうしたあらたな環境とつきあっていく際にも重要なものとなるでしょう。
この書籍は、オンラインの複雑な社会が出現する以前に出版されたものですが、ITの進化により変容しない学びの本質から詳述されており、ITとの関わりの多少にかかわらず、一度は読んでおかれるとよいのではないかと思います。[佐藤朝美]